「医療安全」と「EBM」は医療従事者を守るという側面もある
前回までにお話ししたように、患者さんを守るための「医療安全」や「EBM(根拠に基づく医療)」という考え方が登場したのは1990年代からで、広く浸透したのはコンピューターが普及した2000年以降といっていいでしょう。それまでは、医師の経験や勘、習慣や伝統に頼った医療が主流でした。客観的な大規模データが不足していたからです。
そうした客観的な大規模データをベースにして、患者さんによりエビデンス(科学的根拠)の高い治療を提供するために各学会でガイドラインが作成され、標準治療という考え方が浸透してきたことによって、ここ10年ほどは医師を育成する医学教育の段階から、医療安全やEBMの重要性を教えていくようになりました。
私が医学生だった1970年代後半は、もちろん医療安全やEBMといった考え方はありません。人々を集合として捉え、国や市町村といった社会レベルで健康を扱う「公衆衛生」と呼ばれる分野はありましたが、個人レベルで健康を扱う臨床医学が中心でした。
それが、いまはその公衆衛生に医療安全、医療倫理、EBMなどの考え方が組み込まれ、学生時代に学ぶ問題の6~7割は公衆衛生が絡んでいます。