もやもや病と闘うバルーンアーティストの神宮エミさん「かわいらしい病名の割に…」

公開日: 更新日:

神宮エミさん(バルーンアーティスト/37歳)=もやもや病

「脳梗塞です。ご主人を呼んでください」

 医師からそう言われたのは2020年5月の連休直前でした。

 その前日の夕方、キッチンでコップを取ろうとして手を伸ばした瞬間、急に脚の力が抜けて床にうずくまってしまったのです。ビックリしましたが、5分もすると何事もなかったように治りました。ただ、そのことを主人に伝えようとして、「ちょっと聞いてよ。さっきさぁ」と言おうとしたら、ろれつが回りません。

 でもそれも5分ぐらいで治ったので、普通に夕食を済ませ、オンライン飲み会に参加したりしていました。

 一夜明けて、改めて考えるとあの症状は異常だと思い、病院を調べてまず電話をしました。症状を伝えると「ひとまず来てください」と言われ、タクシーを飛ばして行きました。それでMRI検査の結果、「ご主人を呼んでください」となったわけです。

 思えば19年の冬あたりからちょくちょく指先や唇の先にしびれを感じることがありました。でも指先を使う仕事なので、「腱鞘炎かな?」と思っていたのです。

 脳梗塞と言われ、そのまま紹介された病院に入院しました。すると頭を固定され、体には管がつながれ、ベッドの上から動けない状態で10日間放置されました。なぜならゴールデンウイークだったから(笑)。

 連休が明けて造影剤を使った検査をすると、「『もやもや病』の可能性がある」と言われました。どうやら、もやもや病からの脳梗塞だったようです。もやもや病は、脳の主要な血管である内頚動脈が頭蓋内で徐々に細くなってしまう病気です。その過程で脳の血液不足が起こり、補おうとして異常血管が生まれます。極細の血管がたくさんできるので、画像ではもやもやしたものが写ることから、この病名がついたようです。かわいらしい名前の割に重い病気です。

 3週間ほどで退院しましたが、しばらくして全身にしびれがきたので救急車を呼びました。同じ病院で診てもらうと「薬も効かないし、手術しましょうか」と手術日まで決められてしまいました。

 さすがに怖くなって、別の病院の知り合いの医師に相談すると、「うちでセカンドオピニオンすれば?」と言われ、その年の夏にセカンドオピニオンを受けました。そこでわかったのは、それまで飲んできた血液サラサラの薬が、たまたま東洋人の1割に効かないものだったということ。つまり、私はその薬が効かない数少ない東洋人だったというわけです。すぐに薬を替えることで血液はサラサラになり、手術は回避できました。

■手術でしびれが一切なくなった

 その年末、行政が実施している子宮がん検診を初めて受けてみたら、なんと12センチ大の子宮筋腫が見つかりました。悪性ではなかったですが、これがあると貧血になりやすいし、不安要素は取りましょうということで、翌年6月に入院して筋腫を切除しました。

 その際、改めて頭の検査をしてみると、特に右側の内頚動脈の狭窄が進んで血が回っておらず「いつ倒れてもおかしくない」との診断があり、手術を決意しました。それが昨年8月です。

 手術は、内頚動脈の代わりに側頭部の血管を持ってきてつなげる直接バイパスと、頭の中の筋肉を血管に押し付けて筋肉の血管から血液をもらう間接バイパスの2種類の方法があり、悪化が進んだ右側の血管はその両方を、左側は間接バイパスだけの手術でした。

 9月に右側の手術をし、翌年1月に左側の手術を受けました。右側の手術は約5時間ほどかかったものの、術後にほとんど痛みがなく楽勝でした。その流れで左側も気軽に受けたところ、術後に耐えられないほどの激痛に襲われ、一晩中「痛み止め! 痛み止め!」と号泣。毎回、楽勝じゃないんだなと学びました(笑)。

 術後半年の検診では「順調です。血管も太くなっている」とのこと。おかげさまで、手術前によく感じていたしびれや目がチカチカする症状が一切なくなりました。

 心境の変化といえば、「子供が欲しいな」と思うようになりました。それまであまり考えてこなかったんですけれど、「人生一度きりだし、子供がいる人生もステキかも」と主人と話すようになりました。

 あと、小児病棟にバルーンアートを送るプロジェクトを始めました。入院している子供たちに少しでも楽しい気持ちになってほしいと思って。

 病気にならないと気づけなかったこと、生まれてこなかった感覚があるとすると、病気も「神宮エミの要素の一部」なんですよね。

 血液サラサラの薬は一生飲み続けなければならないけれど、人生一度きりだし、いろいろ考えるより、楽しく生きられたらいいなと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽神宮エミ(じんぐう・えみ)1985年、北海道生まれ。大学卒業後、役者を目指して活動していたが、住宅展示場のアルバイトでバルーン作りに目覚め、2013年から本格的に始める。18年にはバルーンアートの全米大会ドレス部門で優勝。広告、装飾、イベントなどで活躍している。9月24日(土)に島根県「松江水燈路(すいとうろ)」イベントでバルーンファッションを披露する予定。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇