肝硬変で余命宣告も…林葉直子さん「良くない恋愛で酒量が増えて…」
林葉直子さん(元女流棋士・作家/54歳)=アルコール性肝硬変
今は故郷の福岡で母と一緒に暮らしています。アルコール性肝炎で入院した42歳のとき、福岡から上京した母が「1人で住んでたら危ないから帰るよ」と、私が住んでいた都内の賃貸マンションを解約し、荷物を福岡に送ってしまって(笑)、退院後は帰郷せざるをえなくなってしまったんです。
アルコール性肝炎とわかったのは、腹水がたまったからでした。突然、妊婦さんみたいにお腹がパンパンに膨れあがったんです。
驚いて大学病院で診てもらったら、即入院。飲み薬と点滴治療を受けて、10日ほどでお腹はへこみました。
それは良かったのですが、その病院の個室代がなんと1泊3万5000円! 10日間で35万円もかかっちゃったんです。38歳で自己破産していたので、自分の体のことより、お財布の方が痛かった(笑)。
退院するとき、お医者さんに「お酒を飲まないように。どうしても飲みたくなったら、ここに電話してください」と、アルコール依存症の人のための相談先を渡されました。でも、自分では依存症という認識はなかったんです。私の周りにはお酒好きの人が多く、「飲む量をちょっと減らせば大丈夫だよ」と言われ、自分でも軽く考えて「1杯ぐらいどうってことないよね」と、1年ぐらいでまた飲み始めちゃったんです。
あるとき、ちょっとした荷物を持ち上げようとしたら腰に激痛が走りました。てっきりギックリ腰だと思って病院にかかると、「肝硬変」と診断を受けてまた即入院。「肝移植しないと余命1年」と言われてしまいました。
じつは腰痛だけでなく、また腹水がたまってきていました。両方の足首も足先まで紫色に腫れ、靴が履けず歩けないほど……。微熱、黄疸、不眠などもあり、入院中は意識がもうろうとしたこともありました。血小板が減少していたので、輸血もしていただきましたが、体重は37キロまで落ちました。
2週間の入院中、一番つらかったのは右足裏のこむら返りでした。骨折以上にすっごく痛いんです!
漢方薬の芍薬甘草湯を飲み、看護師さんにマッサージしていただいたりしましたが、それでも頻繁に起こってしまって……。
さすがに生活改善をしなくてはいけないと思い、本やインターネットで調べて、どうすれば健康を取り戻せるか、試行錯誤するようになりました。
■生活習慣を改めて数値が改善
そもそも私がお酒を覚えたのは、“良くない恋愛”のせいでした。女流棋士として女流王将を10連覇し、小説家としてもバリバリ書いていた23歳の頃、その恋愛が始まりました。
相手の方のお酒に付き合っていろんなお酒を飲むうちに、お酒の味を覚えてしまったんです。ロイヤルサルートやザ・マッカランをいただき、「ウイスキーってこんなにおいしいんだ!」なんて(笑)。さらには寝る前にちょっと飲んで寝るクセがついてしまいました。
その後、相手の方の仕事の成績が落ちてしまったことで、私は自分を責めて酒量が増えていきました。別れ話になっていた20代半ばは飲酒のピークで、一晩でヘネシーを1本空けたりしていました。眠れない夜は、眠剤をアルコールで流し込んで……。
今思えば、あんな恋愛はお互い無駄なエネルギーを使っただけでした。周囲にご迷惑をおかけし、体を壊し、そのうえ私は大切な将棋を失ってしまった。つくづく残念だったなと思います。
生活習慣を改めた今は、「深夜2時就寝、朝9時起床」の夜型生活ではありますが、規則正しく生活しています。食事は1日2回。お医者さんに「もっとタンパク質を取りなさい」と言われるので食間にプロテインや高栄養食品を取っていますが、体重は39キロと、なかなか増えてくれません。水分は取り過ぎないよう注意して、徹底的に減塩し、お醤油はリンゴ酢とハチミツで代用するなどしています。
お酒については、45歳のときに転倒して大腿骨を骨折した頃から、全然飲みたいと思わなくなりました。ただ、たばこはやめられず、1日7本ほど吸っています。運動はまったくしていなくて……昔から苦手なんです。
それでも、お酒をやめた頃から血液検査の肝臓の数値は急速に良くなっていきました。今はGOTの値がまだちょっと高い以外はほぼすべて基準値内。下剤や整腸剤、利尿剤などの飲み薬の量も減っています。もう、肝移植は必要ありません。
余命宣告まで受けたことを思うと、ここまで回復したことに自分でも驚いています。私みたいなヘンチクリンな生き方をする人間でも、まだ神様は死なせまいとするんだな。ということは、まだ何かやれることがあるんだな、と思っています。
これからは、また本をゆっくり書きたいですね。いろんな経験をしてきたので、困っている女性に役立つようなものを書きたい。今の収入は、以前書いた本の印税が少しずつ入ってくるだけですし……。藤井聡太5冠の将棋の観戦記も書いてみたい。そうやって将棋に携われたらうれしいな、と思っています。
(聞き手=中野裕子)
▽林葉直子(はやしば・なおこ) 1968年、福岡県生まれ。小学校6年生で上京し、奨励会に入会。80年にプロとなり、82年には14歳で女流王将のタイトルを獲得。史上最年少でタイトルホルダーとなり、以来10連覇を達成した。作家としても活躍したが、94年に失踪騒動を起こし、翌95年に日本将棋連盟を退会して棋士を廃業。その後、不倫告白や自己破産などスキャンダルが続き、2008年に福岡へ帰郷。現在は新型コロナの影響で休養中。
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