「とうとう来ましたか」と言われ…俳優・前田吟さん狭心症のカテーテル手術を振り返る
前田吟さん(俳優/78歳)=狭心症ほか
病気の話ね、いろいろやってるからね。一番新しいのは去年の「白内障」の手術。だけどやっぱり5年前の「狭心症」が大変だったね。
初めて心臓に異変を感じたのは、70歳の手前。いつも朝一番の新幹線に乗るために、ある区間を走っていたんだけど、ある日、急に息苦しくて歩けなくなった。初めて新幹線に間に合わなくなって、そこから時々胸が痛むようになったんです。
しばらくじっとしていると治るのでだましだまし過ごしていたら、2018年にTBS系の「名医のTHE太鼓判!」という番組に出演する機会があって、いろんなことがわかったわけ。睡眠時に2分近い無呼吸があったり、心臓の毛細血管に血がいってないとか……。あまりいい結果じゃなかったので、番組に出演していた先生に「いずれは手術しましょうね」と言われたんです。
それでもなおかつ治療をしないで仕事をしていたら、今度は散歩中にギューッと心臓が痛くなって、冷や汗が出て、これまでにない危機感に襲われました。それで番組でお世話になった先生に電話をしたら、「とうとう来ましたか」と言われたんです。指定された心臓画像クリニックで心臓を撮影してくるように指示されて、画像を持って先生のところへ行くと、画像を見ながら「よく持ちこたえていましたね。即入院です」だって(笑)。大事な血管が3本詰まっていると、そのとき知りました。
大学病院を紹介されて入院したと思ったら、即手術。手首の血管からカテーテルを入れて、1日目は右の1本、数日して左側の2本にステントという血管を広げるための金属でできた網状の筒を入れました。
良かったですよ、開胸手術じゃなくて。今は余程のことがない限り胸を開いたりしないらしいね。
じつは、故・地井武男から手術の話をさんざん聞いていたもんだから、内心怖かったんです。あいつが病院抜け出してきて、昼間から一緒にその辺の飲み屋でよく会っていた。手術の傷痕がまたすごくて、何カ所も切られていたからさ。だけど今はカテーテルで傷も小さいし、先生に全幅の信頼があったから怖くなかったです。
病気の原因は食事でしょう。だって、お酒飲んで、脂っこいおいしいものを食べて、運動しないでしょう? ゴルフはするけど、ゴルフすると昼も夜もごちそうなんだから(笑)。だけど、飲みすぎと食べすぎ以外は、好きな物を食べればいいと思いますよ。野菜しか食べないとか、これは体に悪いとか考えない。“健康オタク”になりすぎるより、あんまり病気のことを心配しないほうがいいと思っています。
■「絶対に治して健康体になる」と思わない
おかげさまで、40歳から10年ごとに病気をしてきました。
最初は「十二指腸潰瘍」、50歳で「翼状片」という目の病気、60歳で「鼠径ヘルニア」、70歳で「帯状疱疹」。そして75歳で「狭心症」、78歳で「白内障」。家具や時計もそうだけど、1カ所直すと必ずどこか違うところが悪くなるじゃない? だから、絶対に治して健康体になると思わないで、「次はどこが悪くなるかな」って心構えが必要なんじゃないかな。年寄りは特にね。治療しても100%は治らない。抑えているだけなんだって。あとはよく笑って、よくしゃべること。それが僕の健康法かな。人になんと言われようともしゃべりまくる。
愉快な話でいうと、50歳のときの翼状片かな。白目の部分の組織が増殖して黒目の部分に入り込んでいく病気で、黒目が充血したように赤く見えるんですよ。ごまかしながら仕事をしていたら、ある日、共演者にこう言われたんです。「友人の眼科の名医がテレビを見て、吟さんの目がおかしいから一度連れてきてと言われた」と。自覚もあったので気にかけていたら、後日、小田原のゴルフ場に向かう車の中から、山の上にその眼科医の名を冠した看板が見えたの。違うかもしれないと思いながら帰りに立ち寄って恐る恐る確かめると、まさに院長が共演者の知り合いでした。
さっそく検査をしてくれて、第一声が「おまえ、これはダメだ。失明だよ」。ガハハと笑いながら「明日手術だ」と言われ、そのままえらく高額な病室に通されました。
政界の大物も利用するその部屋は広くて、きれいで、丸くせり出した窓から小田原の街と海を一望できる最高の眺望。そこで2週間以上過ごしたんですけど、両目を手術したので何にも見えやしない(笑)。部屋が広いからトイレまでも遠くて、目が見えるうちに歩数や道のりを覚えなくちゃならないし、もう大変でした。当時は稼いでいたから支払えましたけど、これでこの料金はどうなんだろうと思いましたよ(笑)。
これには後日談がありまして、昨年の白内障手術もこの病院でやってもらったんですが、28年ぶりに同じ個室を利用したら、当時よりだいぶお安い。ホッとしたって話です。
(聞き手=松永詠美子)
▽前田吟(まえだ・ぎん)1944年、山口県生まれ。63年、劇団俳優座の養成所に入り、翌年にドラマ「判決(沖縄の子)」でテレビデビュー。映画「男はつらいよ」シリーズには25歳から75歳まで全作品に出演。「渡る世間は鬼ばかり」ほかドラマ、映画、舞台からバラエティー番組の司会まで幅広く活躍している。昨年、歌手・箱崎幸子さんと再婚。夫婦でのデュエット曲などを含む箱崎幸子CD「幻恋歌/凪の風景」が3月22日に㈱ウルトラ・ヴァイヴから発売。
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