著者のコラム一覧
新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

「歩くスピードが遅くなる」は認知機能低下のサイン

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歩くことが習慣化したら、これまでより大幅の歩き方で

 2022年の「第3回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト」で最優秀賞を受賞したのが、一関工業高等専門学校(岩手県一関市)の学生3人が開発した「歩き方で認知症になるかどうかがわかる装置」です。

 着目したのは、認知症患者に見られる歩行時のすり足やふらつき。一関市の高齢者約100人から集めた歩行データをもとに、「D-walk」を考案したそうです。

 インソール型の足圧センサーを靴に挿入し、加速度センサーを搭載しているスマートフォンを持って歩くだけで認知症リスクを予測できる。軽度認知障害(MCI)の早期発見につながり、健康な状態へ改善を促すことができる。かつ、歩くことで認知症の予防効果が期待できると提案したと、記事で紹介されていました。

 私のクリニックでも、認知症を発症する前に運動食事、生活習慣改善をして、MCIから認知症へ移行するのを食い止めよう、遅らせよう、という取り組みをしていますから、非常に興味深く感じました。

 さて、「歩く」ことについて。年代を問わず、この連載を読まれた方は、ぜひ今日から始めていただきたいですね。新緑が美しい5月は、気持ちよく歩ける季節です。

 全く運動経験のない方は、時間や距離はひとまず置いておいて、歩くことの習慣づけから。

 ロンドン大学の研究者の調査によると、習慣化するのに必要な日数は平均66日。10分でもいいですから、続けるようにしてください。

 歩くことに慣れてきたなら、これまでよりも歩幅を広めに歩くことを心がけるのはいかがでしょうか。国立環境研究所の谷口優主任研究員がこんな研究結果を発表しています。それは、「歩幅の狭い人は、広い人に比べて認知機能が3.39倍低下しやすい」というもの。

 谷口主任研究員は、東京都健康長寿医療センターに在籍していたとき、群馬県と新潟県在住の1000人以上の歩行を測定。歩幅を「広い」「普通」「狭い」に分け、最長4年間、認知機能の低下を調査したところ、最終的に追跡できた666人のうち、歩幅の狭い群で認知機能の低下が最も多く見られたそうです。両手を大きく振って、リズミカルに大股で歩いてくださいね。

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