著者のコラム一覧
天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

心臓病がメンタルヘルスに悪影響を与えるケースがある

公開日: 更新日:

血流の悪化が関係する

 ほかにも、心血管疾患による血流の悪化が、メンタルヘルスに影響を与えるケースもあります。たとえば大動脈弁狭窄症は、その代表的なものです。血液の逆流を防止する大動脈弁が硬くなって開きにくくなる病気で、血液の流れが悪くなり重症化すると突然死するケースもあります。

 心拍出量が減って脳への血液循環も悪くなるため、セロトニンなどの神経伝達物質の産生に障害が出たり、脳細胞に多くの栄養や酸素が行き渡らなくなり、萎縮して脳機能が低下し、うつ状態や意欲低下を引き起こすのです。

 これは大動脈弁狭窄症の代表的な初期症状のひとつで、とにかくやる気が出ない、何をするにも面倒くさいといったうつ状態になり、仕事や家事をはじめ、自分が好きなことに対してもやる気を感じなくなります。さらには、行動が緩慢になっていって、周囲からの問いかけに対して反応が鈍くなる場合もあります。

 こうしたうつ症状や意欲低下の背後に、心血管疾患が隠れているケースもあるのです。

 大動脈弁狭窄症のように血流の悪化によってメンタルヘルスに障害が起こっている場合、原因になっている病気を手術などで治療すれば、精神症状は治まります。また、冒頭でお話しした病気や治療に対する不安によって生じたメンタルヘルスの症状は、病状が回復するにつれて徐々に改善していくケースがほとんどです。しかし、中にはそのまま本格的なうつ病などのメンタルヘルス疾患になってしまう人もいます。その場合、心臓のリハビリと並行して、メンタルヘルスの専門医による薬物治療や心理療法が必要になります。

 心血管疾患とメンタルヘルス疾患は密接に関係していることを念頭に置きつつ、その両方に対するケアが大切なのです。

【連載】上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも