心臓病がメンタルヘルスに悪影響を与えるケースがある
前回、メンタルヘルス疾患と心血管疾患は密接に関係しているとお話ししました。うつ病や統合失調症を抱えている人は、心血管疾患の発症や死亡のリスクがアップするという報告がたくさんあるのです。
それとは逆に、心血管疾患にかかるとメンタルヘルス疾患を発症しやすくなるとの研究も数多く報告されています。海外の研究では、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患があると、うつ病の発症リスクが2.8倍になることがわかっています。また、心筋梗塞を起こした後の患者さんの45%は、3~4カ月後に抑うつ状態を新たに発症し、そのうち18%は重度のうつ病で数カ月間は社会復帰できないケースがほとんどだったという報告もあります。
心血管疾患とメンタルヘルス疾患は相互に影響を与え、患者さんの予後を悪くする要因になっているのです。2008年には米国心臓協会が、すべての虚血性心疾患患者にうつ病のスクリーニング検査を実施し、うつ病と診断された場合には専門医が介入して適切な治療につなげることを推奨しているほどです。
心血管疾患があると、どうしてメンタルヘルス疾患を合併しやすいのかについて、はっきりとしたメカニズムは解明されてはいませんが、いくつか要因が考えられています。
まずは、心血管疾患に関連するさまざまな不安を抱えることが一因になります。病気そのものに対する苦痛や負担はもちろん、家族や仕事への影響、将来の人生設計など、さまざまな悩みをいっぺんに抱えてしまう患者さんは少なくありません。また、心血管疾患の治療では、食事や運動などさまざまな行動制限が課されるケースがあります。そうしたストレスが重なって、メンタルヘルス疾患につながる患者さんがいるのです。
心血管疾患によって生じる生体への影響も考えられます。心不全や心筋梗塞などの病気や、さまざまな心血管疾患のリスク因子である動脈硬化では、慢性炎症を生じるケースが多く見られ、慢性炎症があると体内で炎症性サイトカインがたくさん放出されます。近年、この炎症性サイトカインがうつ病と深く関係していることがわかっていて、実際、うつ病の患者さんの血液中では炎症性サイトカインの上昇が見られると報告されているのです。
また、心血管疾患になると、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、コルチゾールといった神経伝達物質の分泌のバランスが崩れ、セロトニンが不足してしまうケースがあります。セロトニンが不足するとやる気や欲求が低下するなどの症状を引き起こし、うつ病の患者さんではセロトニン不足が起こっているとされています。