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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

メンタルヘルス疾患と心臓病は密接に関係している

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 厚労省の調査によると、メンタルヘルス不調の悪化による精神疾患を抱える患者数は、2002年の258万4000人から、17年は419万3000人まで増えています。

 また、経済協力開発機構(OECD)の「メンタルヘルスに関する国際調査2021」では、日本人の17.3%がうつ症状を有すると報告されています。

 こうしたメンタルヘルス不調を抱える人が増えているのは、社会構造や生活スタイルの変化などさまざまな要因が複雑に絡み合っているとされていて、今後はさらに増加すると予想されます。

 そうした状況だからこそ、知っておくべきなのが心臓とメンタルヘルス疾患の関係です。海外の研究では、統合失調症など重度のメンタルヘルス疾患がある人は、そうでない人と比べて心血管疾患関連の死亡率が2倍であることがわかっています。

 同じく海外の研究では、うつ病の患者は、そうでない人に比べて冠動脈疾患の発症リスクが約2.5倍アップするという結果が出ています。ほかにも、うつ病患者が心筋梗塞を発症した後は、心血管疾患で死亡する確率が5倍になるとの報告もあります。なぜ、メンタルヘルス疾患がある人で心血管疾患の発症リスクがアップするのかについて、はっきりしたメカニズムは明らかになっていません。しかし、考えられる要素はいくつかあります。

 まず、ストレスの影響が考えられます。メンタルヘルス疾患はストレスと深く関係していて、メンタルヘルス疾患があると、自律神経のバランスが崩れて副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンの血中濃度が増えたり、神経伝達物質が増加します。これらが過剰になると血管や血流に悪影響を与えるので、心臓に負担がかかってしまうのです。

 そして、メンタルヘルス疾患の患者さんに使われる薬の影響も考えられます。たとえば、統合失調症で使われる抗精神病薬は、脳内のドーパミン神経の活動を抑えることにより幻覚や妄想などの症状を改善します。ただ、そうした抗精神病薬の多くはα1受容体遮断作用があり、血管を拡張させて血圧を下げる作用があります。そのため、α1受容体遮断薬は高血圧に対する降圧剤としても使われています。ですから、高血圧のない統合失調症の患者さんにそれらの抗精神病薬を使うと、血圧が下がりすぎてフラフラになってしまうケースがあるのです。

 血圧が下がりすぎると意識消失を招く危険がありますし、基礎疾患として心臓病があると、ショック状態になって心臓が止まる危険もあります。また、血圧が急激に上下動すると、心筋梗塞、大動脈解離、不整脈、脳卒中といった心血管疾患を引き起こす原因にもなります。

 ほかにも、うつ病などに使われる向精神薬は、ほとんどに血管作動性があります。血管の平滑筋に作用して、収縮させたり弛緩させたりするのです。それにより、血管や心臓がダメージを受けるケースがあるのです。

 さらに、不眠症などで使われる睡眠薬も血管拡張作用があるものが多く、これも脱水を起こしやすい夏やヒートショックを来しやすくなる真冬では心臓トラブルにつながる恐れがあります。就寝中は自然に副交感神経が優位になり、血管拡張作用によって心臓の活動が抑えられて負担は軽くなっているのですが、起床すると今度は交感神経が優位になるので、それまで抑えられていた心臓の活動が解放されます。そうした急激なリバウンドによって、一気に高血圧になる危険があるのです。これが心機能が落ちている人に起こると、そのまま心不全になってしまうケースもあるので注意が必要です。

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