認知症の発症や進行予防に「料理」が有効なのはどうして?
役割を取り上げず、料理を一緒に作る機会を
在宅で介護されていると、ご家族は火の不始末や包丁の扱いを心配して、本人から台所に立つ機会を奪ってしまうケースも少なくありません。ですが、かつて料理をしていた人であれば手続き記憶として感覚が残っているため器用に包丁を使いこなせる場合もあります。その人の役割を取り上げるのではなく、料理を一緒に作る機会を持ってみてください。その際、ご家族は「料理を教えてもらう」立場でお手伝いをお願いし、ゴマをする、大根をおろすなどの役割を担当してもらいましょう。立ちながらの作業が難しければ、椅子に座りながらで構いません。感謝の気持ちや、「おいしいね」と感想を伝えることが非常に大切であり、自尊心や自己有用感のアップにつながります。
一緒に料理を作る中で、ご家族にとっても「あの頃お母さんがこの料理を作ってくれたな」と当時を思い出したり、「こう味付けした方がいいのよ」と母親らしい一面が見えやすい。料理活動では、普段のケアされる側とケアする側といった立場ではなく、親として自分を引っ張ってくれていた、かつての親に“出会い直す”こともできるのです。
▽湯川夏子(ゆかわ・なつこ) 1993年、奈良女子大学人間文化研究科修了、博士(学術)。2017年4月から現職。研究分野は調理学、食育。03年から料理療法の実践研究を実施。編著書「認知症ケアと予防に役立つ料理療法」(クリエイツかもがわ)他。