若い女性の活動量が低下している…「妊娠糖尿病」に気をつけろ
新型コロナをきっかけに出無精になった人も多い。それは妊婦も同じだ。だからこそ気をつけたいのが「妊娠糖尿病」だ。国際糖尿病連合によると、世界の新生児の17%は母親の高血糖の影響を受けているという。高齢出産になるとそのリスクが高くなる。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。
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「妊娠糖尿病とは、妊娠中に血糖値が高くなる糖代謝異常のこと。大きく3種類あり、①妊娠中に発見・発病した糖尿病ほどではない軽い糖代謝異常である『妊娠糖尿病』、②もしかしたら妊娠前から診断されていない糖尿病があったかもしれないという糖代謝異常である『妊娠中の明らかな糖尿病』、③糖尿病の人が妊娠した状態である『糖尿病合併妊娠』があります。日本では妊娠した人の8人に1人が発症するといわれ、増えている印象があります」
そもそも妊娠中は血糖値が上がりやすい。基礎体温を上げて子宮内膜を安定させたり、授乳準備のための女性ホルモンが胎盤から分泌され、インスリンの働きを悪くするからだ。
「妊娠中の高血糖は母子共に悪影響を与えます。母体は妊娠高血圧腎症、前置胎盤、羊水量異常、難産、網膜症、腎症など、胎児は流産、形態異常、巨大児、心臓肥大、低血糖、黄疸、胎児死亡などが起きる場合があります」
カナダの研究によると、妊娠糖尿病を発症した母親とその子供は血糖値が上がりやすい体質が残り、将来、2型糖尿病になるリスクが高いという。妊娠糖尿病の母親から生まれた子供が糖尿病を発症するリスクは通常のほぼ2倍だと報告している。
「妊娠糖尿病リスクが高いのは、家族に糖尿病の人がいる、巨大児を妊娠したことがある、原因不明の早産や周産期死産の経験がある、それに高齢出産の場合などです」
高齢出産とは一般的に35歳以上の出産のこと。妊娠や出産でのリスクが高くなるとされる。
米国の約3万例を対象とした母体年齢と出産転帰(流産、死産、子宮内外妊娠など)に関する研究では、35歳未満の妊婦に比べて35歳以上40歳未満で、流産率は2倍、40歳以上では2.4倍に上昇することなどが報告されている。
2008年に米国で報告された「年齢別の妊娠糖尿病の推移」によると、25歳未満に比べて25~34歳は5倍、35歳以上では8倍に増えたという。
「高齢出産が妊娠糖尿病の発症リスクを高める理由は、年齢が上がるとインスリン抵抗性が高くなりやすいこと、高齢出産では妊娠中のホルモンバランスの変化がより顕著になって血糖コントロールが難しくなること、高脂肪食の食習慣に運動不足が重なって体重増加や肥満のリスクが高まることなどが考えられます」
■妊娠前から運動を
実際、脂質の過剰摂取は肥満を生み糖尿病リスクを上げる。そのため、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、脂質から得られるエネルギーが1日に占めるエネルギーの割合の目標値を男女共20%以上30%未満としている。
ところが、2019年の国民健康・栄養調査によると、30%以上の20歳以上の女性の割合は44.4%と高率だ。
また、同調査の歩数状況によると、20歳以上の女性の1日平均の歩数は10年間で520歩減少しているうえ、出産が増える20~39歳は、40~59歳と比べて200歩近く少なかった。
「日本人は欧米人に比べてインスリン分泌量が20%少なく、わずかな体重増でも妊娠糖尿病になるリスクが高い。新型コロナの影響で在宅勤務に切り替えたり、買い物を宅配に変えて、歩かなくなった人は妊娠糖尿病を意識する必要があります」
それを回避するにはどうしたらいいのか?
「フィンランドのヘルシンキ大学の研究では、妊娠糖尿病の遺伝的リスクの高い人でも食事や運動などを変えることで糖尿病リスクを63%減少できたと報告しています」
研究では、看護師によるカウンセリングが行われ、食事はお皿の半分を野菜、4分の1をジャガイモ、米、パスタなどのでんぷん質の炭水化物、残り4分の1を肉、魚、卵、豆などのタンパク質で満たし、1日あたり1600~1800カロリーの摂取量を目標とした。運動は個別の運動プログラムが用意されたという。
また、米国の別の研究では、妊娠初期に1日30分以上の運動をする女性は妊娠糖尿病の発症リスクが半分未満だったと報告している。
さらに、米国の別の研究では妊娠前に適切な運動をしている女性は妊娠糖尿病のリスクが低くなったという。
「妊娠中の運動は、転倒などの恐れからためらいがちです。ならば妊娠前から運動して糖代謝を改善しておくと良いでしょう」
なお、妊娠前から糖尿病薬を服用している人は、妊娠中は血糖調整が不安定になるためインスリン療法に切り替える必要があるという。
「妊娠糖尿病と診断された母親は出産後に糖尿病を発症するケースが多い。治療が終わった後も糖尿病の定期検診を受診することが必要です」