対談:高橋善正×山崎裕之「選手たちのカラダが後退している」
日刊ゲンダイGW特別号で開幕1カ月の誤算を一刀両断した本紙評論家の「完全試合投手」高橋善正氏(70=元東映、巨人)と「2000本安打」山崎裕之氏(68=元ロッテ、西武)。現在のプロ野球の問題点について語ってもらった。
――巨人は阿部、相川、大田、オリックスは中島など、肉離れで戦線離脱した選手が続出しています。
山崎「これはプロ野球界全体の練習の仕方が影響してると思うんです」
高橋「それは山ちゃんにも聞こうと思ってたんだよ。本当にケガが多いよね、最近は。昔のレギュラーってさ、1年間通してもケガするのなんてめったにいなかったのに。最近は軒並みだもんね」
山崎「キャンプを見ていて気になるのが走る練習です。我々の時代は野球経験者がトレーニングコーチのような形で指導して、ダッシュの時は必ずスパイクに履き替えていました。今はダッシュだってアップシューズでしょ。しかも、天然芝の力が逃げるようなところで走っている。スパイクを履いて土をしっかり掴んで走ってこそ足首やふくらはぎが鍛えられる」
――投手はどうですか?
高橋「投手の方はまだちゃんと走るよ。でも、今は器械を使ったウエートトレーニングが主流だからね。アメリカ人のようにもともと(体が)強い人はそれでいいかもしれないけど、日本人はそうじゃない。下半身を鍛えるならランニングをやらないとダメ。あと、今の若い投手は上半身と下半身のバランスが取れていないよな。足なら足の筋肉だけ鍛えるといった具合で、上と下の両方を使った練習があまり見られない」
山崎「瞬時に動けるという体をつくっていませんよね。これはウエートトレーニングと、目から入ってくるメジャーリーグの情報の弊害だと思うんです。投手は投げ終わった後に体が一塁や三塁方向に傾いている。あまりに目につくので一度、なんでそんな投げ方になるのか杉下(茂=通算215勝)さんに聞いたことがあります。そうしたら『上体の力だけで投げてるから』って言ってました。これもメジャーの影響なのか、近年の先発は100球前後で降板、しかも日本は中6日も空けますよね。昔の投手は中3日や4日で完投してましたよ。善正さんもそうだったでしょう」
高橋「だな」
山崎「例えば、名球会の中で、投げ終わった後にバランスを崩す投手なんて誰一人としていません。あのザトペック投法の村山(実=故人)さんもです。下半身を使っていないのは打者も同じ。上体の力だけでバットを振っている選手が多い。本来は下半身の回転で振るから脇が締まって鋭いスイングになるし、ボールも引き付けられる」
高橋「投手はヒザの関節を使えないヤツが多いよね。すぐに踏み出した足がつっぱっちゃう。昔は右投手なら左ヒザが曲がったままフィニッシュ。すぐに捕球体勢に入るから守備もうまかった。今みたいなセンター返しだったら、みんな捕れるからピッチャーゴロよ(笑い)。だから我々の時代はピッチャー返しってなかったよね」
山崎「ないですね」
高橋「ライト打ちとかはあったけど。だって投手の方に打ったら捕られるから(笑い)」
山崎「だから、守備の下手な今の投手は危険だと思いますよ。まあ……最近の中で(守備が)うまかったのは(巨人の)桑田(真澄)ですね。投げ終わった後の姿勢がいいから打球への反応がいい。そういう選手が減ってきた。打者も力ばっかりで……」