対談:高橋善正×山崎裕之「選手たちのカラダが後退している」
「今の選手はプロのプライドあるのか」
両者はプロとしての自覚、プライドがない選手が増えたことを挙げ、語気を荒らげる。
――最近は試合前に対戦相手と談笑する選手が増えました。
山崎「少なくとも、お客さんが入場してからは控えてほしい。これから戦う相手と親しくベラベラしゃべるのは良くない。僕らの時代にも他球団で挨拶しなければいけない選手というのは確かにいました。その場合でも3連戦の初戦に、離れたところから帽子のツバを持って頭を下げるくらいでしたよ。塁上で話すにしても、お互い下を向いてわからないようにボソボソとやる程度でした」
高橋「俺らは相手チームの人間とは話しちゃいけないって言われていた。出塁した選手が塁上で話すのもダメだった。投手だって親しくなった野手の内角を厳しく攻めようなんて思えないだろ。『山ちゃんになら打たれてもいいか。いつもメシ一緒に食ってるし、ゴルフも教えてもらってるから』とか、そういうことにならないとは言えないからね。実際、プロ野球規約にも相手の選手と話しちゃいけないとあるんだよな」
(編集部注:野球規則3・09で「監督、コーチまたはプレーヤーが、試合前、試合中を問わず、いかなるときでも観衆に話しかけたり、または相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとること」を禁止している)
――ある一塁手は、出塁した相手の選手に「最近の僕の打撃はどうですかと聞いています」と平気でブログに書いてました。
山崎「感覚がちょっとおかしいですよね」
高橋「プロとしてのプライドがなさすぎるよ。無死満塁からストレートの押し出し四球なんて見せられると特にな。今の時代、カネを払ってでも見たいって選手が何人いるんだよ。バッターにしたって、ベースの手前で落ちるようなワンバウンドを振るのがいっぱいいる。お前らそんなので本当にカネを取れるのか、と思うよ。今の選手は自分の技術に対するプライドがなく、ゲーム感覚のような気がしないでもないんだよ」
――昔を知らない今のファンは、「それがプロ野球だ」と思ってしまいますね。
高橋「それは王(貞治)さんに質問した時に言ってましたよ。『今の選手は、0-0の九回裏2死満塁、カウント3ボール2ストライクからでも、ベースの前に落ちるワンバウンドを振って平気な顔をしてベンチに戻ってくる。フォークボールなんだから空振りしても仕方がないだろう、と思っている』って。見送ったら押し出しで勝ちなのに。選手ですらそうなんだから、ファンもそう思うだろうな」
山崎「練習の時からさまざまな状況を想定していないからそうなるんです。僕は現役時代、フリー打撃の最後の1、2球はさっき高橋さんの言ったケースを想定していた。フルカウントだから、ボール球は絶対に振らないとか、1死三塁で絶対に外野フライが欲しいケースを考えて、わざと外野へ飛球を打つ。でも、今の選手はフリー打撃でご機嫌にコンコンと打って終わってしまう。どこまで状況設定をして練習しているのか疑問です」
――最近の選手はバントも下手になりました。
高橋「アマチュア野球で金属バットが普及していることもあるだろうな。振ったら9番打者でもホームランなんだから。バントの重要性ってのが違うのかもしれない。大学野球でもDHを使っていることもあるから、打席に立たない投手も増えてきた」
山崎「バントで転がす方向なんて光の入射角と一緒。右打者が三塁側に転がしたければ、バットのヘッドを少し内側に傾けておけばいいことなんです。バットの角度さえ決めておけばいい。そのあたりの技術も今の選手はわかっていないのか、下手ですね」
高橋「今の野球は緊張感が全然ないよな。プロの投手がさ、逆球投げて三振取ってガッツポーズって、それはないだろ。相手打者のミスショットのおかげじゃないか。結果オーライだろ。もう、見ていて情けないね」
山崎「もうひとつ、気になるのがベンチでのハイタッチ。投手が1イニングを抑えるたびだとか、バントを成功させただけの時もある。あんなことをやるのは我々の時代はサヨナラ勝ちの時くらい。あれもメジャーの真似でしょう」
高橋「オレはやらなかったよ。しかも、最近はゲームセットで勝ったチームの首脳陣がベンチ前で選手を迎えに出るだろ。本当にくだらない。オレは昔コーチやってた頃、一度も迎えに出たことないよ。当時は監督が一番先に風呂入りに行ってたからな。巨人の長嶋(茂雄)監督時代? その時だな。そういうのを含めて、今の野球はおかしなことが多すぎるよ」