再審決定で注目 社会派ドラマ「BOX 袴田事件 命とは」
冤罪が疑われてきた袴田事件の再審請求がついに認められ、死刑囚の袴田巌氏が即日釈放された。取り調べ時の暴力や証拠捏造疑惑、世界最長といわれる45年間以上もの拘置期間など、あまりに異様な事件の顛末を知るため、いまこそ「BOX 袴田事件 命とは」(2010年、日)を見直したい。
長年の罪悪感により守秘義務を破った当時の主任判事・熊本典道氏の「無実と確信しつつも裁判長の反対で死刑判決文を書いてしまった」との証言を受けての映画化。萩原聖人演じる熊本判事と、同い年の袴田容疑者(新井浩文)の人生を対比させる構成で、冒頭のモノクロ映像が事件発生と共にカラーとなる演出が、時の流れの重さを感じさせる重厚な作品。
■反骨の映画作家はどう描いたのか
裁判と熊本自身の再調査で警察・検察の横暴を明らかにし、冤罪発生のプロセスを暴く社会派ドラマ。監督の高橋伴明は学生運動の闘士でもあった反骨の映画作家で、本作でも当局を厳しく批判・追及する姿勢を隠さない。
中でも熊本判事が、正義に目をつぶる同僚や悪徳刑事に悔し涙で訴える姿の迫力は、いま見ると余計に胸を打つ名場面となっている。とくに圧巻なのは、(犯行時に着用したとされる)下着に付着している血液がなぜ上着についていないのか? と具体的に詰め寄るところだ。
じっさい本作公開の数年後、検察側が「決定的な物証」としたこの血痕の証拠能力が最新のDNA鑑定で否定され今回の再審認定につながったとされる。高橋伴明監督の眼力には恐れ入る。
(映画批評家・前田有一)