<第19回>面白い映画ではなくいかに高倉健のいい絵を撮るか
池部良、田中邦衛、小林稔侍は高倉健が安心して演じられる相手役であり、一方、森繁久弥、三木のり平、勝新太郎、吉永小百合といったキャストは高倉健を発奮させる人たちだ。前置きが長くなったけれど、「網走番外地」は第1作のヒットにより、シリーズ18本となった映画だ。シリーズを通じて、高倉健が信頼する俳優たちが共演している。田中邦衛、嵐寛寿郎、由利徹といった達者な人たちがリラックスして演技している。
物語は囚人が手錠のまま脱獄するアメリカ映画「手錠のままの脱獄」から着想を得たもの。本作は石井輝男が監督だが、シリーズのうち、6本のメガホンを取った降旗康男監督はこんな思い出を語る。
「『網走番外地』を監督していた時、当時の東映幹部から『最初と最後に健さんの歌が付いてて、立ち回りがあれば途中はどうでもいい』と言われました。それを聞いた時は憤慨したけれど、映画館で『網走番外地』を見た時、その言葉はある意味で真実だなと思いましたねえ。映画が始まってギターがボローンって鳴りだしたら、拍手。その後、観客の何人かは居眠りをしてしまうんですよ。それがラストシーンになって健さんが命を投げ出す頃には起きだしてきて、『待ってました』とあちこちから声をかける。観客がスクリーンに向かって声をかけるなんてことはそれまでにも、それ以降にもありえないことです。それほど支持された俳優なんて、ひとりもいないんですよ」