絶賛の映画「恋人たち」 臨場感生んだ橋口亮輔監督の演出力
14日に公開されたばかりの映画「恋人たち」の評価がすこぶるいい。新聞各紙も、公開1週前の金曜夕刊で絶賛する映画評を大きく載せたほど。直前の金曜ではなく、その1週前の掲載であるのに注目したい。中身が素晴らしいのでできるだけ早く記事化し、多くの人に見てほしいというメッセージ、と個人的には受け取った。
困難さをかかえて今を生きる人たちの物語である。妻を殺され犯人を憎み続ける男、夫や姑とうまくいかない日常を送る主婦、愛する男にあることで誤解されショックを受けるゲイの弁護士の3人の話が中心。
演じるのはいずれもプロの俳優ではない。俳優のワークショップで演技を勉強し、今回の作品に出演したのが経緯。これがプロの俳優の手慣れた安定感とは違って、妙に臨場感のあるリアルな雰囲気を醸し出し、とても魅力的なのだ。
それを引き出したのが「ぐるりのこと。」などの橋口亮輔監督(写真)で、素人3人の演出ぶりには舌を巻いた。
その一方で、話題になっているのが橋口監督の映画にかける意欲だ。先行上映が行われた地方の何館かの映画館で積極的に舞台挨拶を行い、PRを自力で実践したのである。これは今夏、「野火」の塚本晋也監督が地方回りを頻繁に行い、好成績につなげたことが影響している。大手が製作する作品と違って、単館系公開の作品は宣伝費を多くかけられない。自力で情報を発信し、マスコミにも取り上げられることがヒットの必須条件になっているのだ。
監督も、作るだけではダメな時代に入ったことも、この映画は改めて教えてくれた。
(映画ジャーナリスト・大高宏雄)