連載小説<1> 錦糸警察署からすぐ来いと電話が…
「今日ですか?」
クエットはためらった。
登録してしばらくは、いつ依頼があってもいいように法律の本を読んだりしていたが、まったく連絡がないので最近はしていない。
「ご都合が悪いようでしたら他を当たります」
「ちょっと待ってください」
心の準備ができないまま、クエットは声を発した。
今月の給料はいつにも増して少ない。春休みということで日本人の学生バイトにシフトを奪われ、あまり働くことができなかったのだ。通訳人の時給は三千円と言われたから、今日一日働けば不足分は補えるだろう。
「わかりました。引き受け……いえ、お引き受けします」
クエットは答えた。
「そうですか。それでは午後二時に錦糸町駅の近くにある錦糸警察署までお越しください。よろしくお願いします」
電話が切れると、クエットはスマホをテーブルに置いて棚に向かった。大学の教科書の間に挟まった一冊の本を抜き取る。日本の刑事手続きの流れと法律用語について説明したものだ。嫌気がささないよう、できるだけ薄いものを選んだ。