一発屋こそ勝ち組…髭男爵の芸はレトルト食品級の"発明"だ
「一発屋の芸って懐メロ的な要素もあるじゃないですか。フォーって聴いたら2005年を思い出す。あの頃のまま聴きたい。変なアレンジはいらない」
その言葉通り、髭男爵が、当時のまま「ルネッサンス!」とグラスを掲げると、信じられないくらい観客は盛り上がったのだ。
髭男爵が「乾杯ネタ」を初めて行ったのは、04年。相方のひぐち君は「最初に山田に提案された時は、『こんなネタ、怒られるだろ!』と大反対した。だってツッコミが“ワイングラスで乾杯”ですよ?」(新潮社=山田ルイ53世著「一発屋芸人列伝」18年5月31日発売)と述懐する。
山田も「若干の背徳感、罪悪感はあった」(同前)と告白する。キャラの皮をかぶっているが、実は正統派漫才を皮肉る漫才批評的な側面があるネタだからだ。だが、同時に山田には「誰もやったことがないネタ」ができたという高揚感があった。やがて進化したこの漫才で08年ごろ、大ブレークを果たすのだ。
いったん、講義を締めた山田は「本当はもう1個説明したいことがある」と語り始めた。一発屋の芸はバカにされがちだ。なぜなら忘年会などでマネをするのが容易だからだ。それはレトルト食品のようなものだ、と。とてつもない発明なのに、自分でできてしまう故に、リスペクトする人はいない。
「“俺らの芸は本当はすごい”なんて自分で言うのは、めちゃめちゃダサいけど、自分だけでも犠牲になろうと思って言う」と前置きした上で、山田は言う。
「一発屋芸人は才能にあふれた勝ち組なんだ!」