「誰でもない」ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳
「誰でもない」ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳
高校卒業後に激安スーパーに就職した「私」は、毎日10時間、レジ打ちをしていたが、5年目に肺結核を患い仕事を辞めた。1年後、回復して古い団地の中の書店で働き始める。地下にある店から地上に向かって扇形に広がる階段を上ると桜の木が立っていた。春、散った桜の花びらが階段で渦を巻き舞い上がる。
書店近くでチンジュという少女が失踪したのも桜の季節だった。書店ではたばこも扱い、チンジュは階段の上に立つ男性2人に頼まれたとたばこを買いに来た。しかし、私は規則だからと売らなかった。その後、チンジュが失踪し、私は守るべき少女を守らなかった非情な目撃者となってしまう。(「ヤンの未来」)
ノーベル賞を受賞したハン・ガン氏に並ぶほど高く評価される韓国人女流作家による短編集。(河出書房新社 1298円)