マザー!(2017年、米国)
美女が業火に焼かれるシーンから始まる。難解でグロい映画は、デビッド・リンチやデビッド・クローネンバーグの十八番だが、本作のダーレン・アロノフスキーの演出力もスゴイ。
舞台は、自然に囲まれた郊外の一軒家。若き美人妻に支えられた著名な詩人の夫はスランプ状態ながら、そこに夫のファンだと称する老人が訪れる。不審に思う妻をよそに、夫は老人を泊めてしまう。
老人をキッカケに、一軒家には次から次へとおかしな人が押し寄せ、不可解な行動が沸き起こっていく。それはやがてエスカレートしていき、暴力、殺人、セックス、戦争が……。
「ブラック・スワン」で注目されたアロノフスキーが描く世界は、まるで悪夢に叩き込まれたかのような錯覚を覚える。平穏な生活はやがて狂乱の世界と化す。ついにブチ切れた妻は、夫の目の前で焼身自殺。その瞬間、「愛してる」と囁く夫に妻が放った言葉だ。
監督が「ある特定の人のために撮った」という本作は、話題作にもかかわらず日本では劇場公開中止。予測不能な展開に耐えられないからだろうが、ハビエル・バルデム、エド・ハリスなどの芸達者な役者陣の演技に引き込まれ、最後まで見てしまうが、「なんだ、これは」と思う人は少なくないはず。妻を“地球”に置き換えると、テーマが分かるかも。
この手の映画は、好きな仲間と見て、あーだこーだディスカッションするのがいいと思う。