スリー・ビルボード(2017年、英国/米国)
米国の田舎町に暮らす母親ミルドレッドは、女手一つで育ててきた娘をレイプされ、焼き殺されてしまう。犯人が捕まらず、警察への不満を募らせると、道路沿いに広告板を3枚デカデカと張り出す。そんなアナログな抗議行動が予想外の波紋を呼ぶ。
非難された警察署長は住民からの信頼が厚く、別れたDV夫からもののしられる始末。そこで浴びせられた言葉だ。
末期がんだった署長はやがて3通の遺書を残して自殺。差別主義者の部下は広告板のせいだと勘違いし、ゲイを窓から突き落として大ケガをさせる。その言葉通り広告板が次々と負の連鎖を生んでいく。
注目は、そこに色濃く描かれた人間の悲哀だろう。ミルドレッドを演じるフランシス・マクドーマンド、差別主義者の警官をサム・ロックウェルが演じる。オスカーに輝くのも納得で、署長役のウディ・ハレルソンと共に、やりきれない不毛な人間の心の闇を丁寧に映し出している。
練られた脚本がよく、アイルランド出身監督の演出はブラックな職人技が光る。静かに、しかしぐいぐいと引き込まれていくのだ。
70年代のアメリカン・ニューシネマのようで、人間くさい重いドラマながら見終わった後は不思議とすがすがしさが残る。黒人やゲイなどへの差別がさりげなく織り込まれているのも興味深い。上質な映画をゆったり楽しみたい人にお薦めだ。