わたしは、ダニエル・ブレイク(2016年、英・仏・ベルギー)
アラ還の大工ダニエルは心臓病で、仕事はドクターストップ。国の手当を受けるため福祉事務所に赴くが、融通の利かない職員の対応にイラッとする。
そんな中、職員からぞんざいにされたシングルマザーの移民美女に同情。自らも助けが必要なのに、事あるごとに世話を焼く。行政はどこまでも冷たく、ついに彼女は風俗へ。そんな彼女に投げかけた言葉だ。
日本にもある役所の横柄な態度。ダニエルは日本人の気質に通じるオヤジで共感しやすい。彼女たちの役に立とうと交流を深めていく過程が淡々と描かれる。
衝撃は、彼女が福祉グループから日用品や食材の配給をもらいに行ったシーン。パスタソースを受け取った瞬間、缶詰のフタを開けて、手ですくい上げてガバッと口に入れる。子供に「ママはお腹いっぱいだから」と食事をあげていただけに、一瞬、何が何だか分からなくなる。それくらい差し迫った演技だ。
労働者の視点を描いた作品で評価の高いケン・ローチが、引退表明を撤回してメガホンを取ったのが本作。パルムドール受賞スピーチでは、「権力を握った者に立ち向かう人に代わって声を上げるのが映画の使命」といったことを語っている。
大工を演じる英コメディアンは、人間の尊厳を踏みにじられたデジタル弱者の不満を巧みに表現する。映画初出演とは思えないほどの名演で、福祉の現場を丁寧にリサーチして練り上げた脚本と相まって、説得力がある。日本の役人が見たら、どう思うだろうか。