銭湯でご老人の命を救った俺の「武勇伝」を聞いてくれ
さあ、そこからの俺の全裸単独救急隊員の悪戦苦闘ぶりは、決して再現ドラマなどにはならないであろう、決死の物語となっていくのであった……。
俺の右腕の中で、次第に意識が混濁していくご老人の耳元に声をかけ続けながら、銭湯のご主人に素早く指示を出し、救急車を呼んでもらうのと同時に、AEDを用意してもらう俺……あの、これは余談ですが、こーいう状況の時って周囲の人間は(7、8人いました)ボウ然としてしまっているのか~、はたまた関わり合いを避けたいのか? ただひたすら静観しているだけで何ひとつ動いてはくれなかったのです(責めるのではなく人間てたぶん、そーいうものなのでしょう)。
そして、それはいきなりやってきたのです。「大丈夫ですか」「聞こえますか」「救急車がもうすぐきますよ!」と耳元で繰り返している俺のまさに目と鼻の先で、パクパクと震えていた唇は閉じられ、それと同時に、たった今までおぼろげに空を見ていた目も閉じてしまったのだ……。
ヒャ~!! 頼む! 目を開けてー!! と必死に呼びかける俺……いや、その時の俺の正直な気持ちは冷血と言われようが「俺の腕の中で老人が息を引き取った人生の歴史」なんて刻みたくないよ~!! というものであった。