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一雫ライオン作家

1973年、東京都生まれ。明治大学政治経済学部2部中退。俳優活動を経て、35歳のときに演劇ユニット「東京深夜舞台」結成を機に脚本家に転身。主な脚本作品に、映画「TAP 完全なる飼育」「サブイボマスク」、東野圭吾原作「パラレルワールド・ラブストーリー」など。2017年に家族愛を描いた「ダー・天使」(集英社)で小説家デビューし、翌年「スノーマン」出版。最新作は幻冬舎から出版予定。

決定権ある方へ みんな地べたに必死に足をつけ生きている

公開日: 更新日:

 長谷川を通じて知り合った、やはり海の家をなりわいにしている孝ちゃんという男がいて電話をした。まず治安の心配。夏の海というのは開放的になるので夜になると危ないやからも出てくる。海の家は、そういった面の抑止力にもなっている。「どうなのよ」と問うと、「まいった」と孝ちゃんは笑った。倒産した方も多いという。が、彼らは誰に頼まれもせず毎晩夜の海をパトロールし安全を確保し、朝になれば海岸のごみを拾い集めているという。そのなかには倒産された方もいるらしい。もちろん、無償でだ。「コロナファイターズ」もいいが、みんな、地べたに必死に足をつけ生きていることを決定権のある方には忘れてほしくない。

 8月最後の日。長谷川という男から連絡がきた。「ネットで花火大会するから見てよ」。パソコンをのぞくと、無観客の湘南の夜空に花火があがっていた。万が一お客さんが来てはいけないので、日程の告知はしなかったという。きけばあまたある海の家の人々が手を取り合い開催にこぎつけたという。費用はほぼ持ち出しだ。何百発もの花火は湘南の空を駆け抜け、舞いあがった。花火など無駄なことかもしれない。なくとも生きていける。だがパソコンから見る花火は妙に力強く美しくて、来年こそはなどという甘さを超えた、そこで生きる人たちの明日への意地を感じた。

 そしてなぜ長谷川という男は、会社を持ちながら海の家までやっているのか。それは彼がたいへん世話になり亡くなった方が、愛した場所だからだ。そういうことは、大切だと思う。

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