CD未発売で異例の紅白初出場 YOASOBIと太宰治に通じる世界観
さらには、ボーカリストであるikuraさんの透明感かつニュートラルな声の力で、そのテーマ自体の重々しさを一掃し、むしろ「生への希望」すら感じられるような独特の世界観が成立している。
「これはフィクションという名の芸術なのだ」という「あえて感」が、しっかりと計算された上で製作されていることが窺える。
■フィクションとしての「死への渇望」は表現するべきか?
この曲が流行った時、SNSなどでは、子供が心中の歌を口ずさむことに多少なりとも不安を覚える親の呟きが見られた。
確かに、生死と向き合ったこの2020年に「夜に駆ける」という楽曲が流行ったことの意味を考えずにはいられないが、筆者はこの楽曲が流行ったことには意味があると思えてならない。
表現すべきフィクションと、表現すべきではないフィクションは確かに存在する。しかしこの楽曲は決して「死を推奨する歌」ではなく、むしろ死への渇望に捉われるその愚かさを表現しているように感じる。