綾野剛「ヤクザと家族」は菅政権への強烈なアンチテーゼ
1月末に公開になった映画「ヤクザと家族 The Family」の評判が上々。「鬼滅」や「銀魂」を相手に興行ランキングでは初登場5位と大健闘している。
製作は安倍晋三前首相のモリカケ“事件”をモチーフにした社会派サスペンス映画「新聞記者」で真相に切り込んだ河村光庸プロデューサー&藤井道人監督。現役総理大臣のスキャンダルを“忖度”せず映画にした前代未聞の同作は大きな話題を呼び、日本アカデミー賞で作品賞など主要3部門を独占した。
■ガチンコ社会派ムービー 必見の価値あり
戦後最長政権の闇へ臆せず立ち向かったこのコンビは、菅政権に代わったいま何を描くのか注目を集めていたが、期待の最新作が意外にも古めかしいヤクザ映画だったことで驚きの声が上がっている。その背景を映画批評家の前田有一氏が語る。
「2019年当時は政権に盾突くような企画はメジャーではまず通らぬ空気で、だからこそ『新聞記者』の衝撃は業界人の間では大きかった。直後、河村氏の次作『宮本から君へ』が、不可解な理由で文化庁の助成金交付内定を取り消されたことから、一部では“見せしめではないか”とも噂されました。河村氏は一歩も引かず、現在も法廷で戦っていますから、次もガチンコの社会派映画を想像していた人は多かった」
綾野剛演じるヤクザの生きざまを、1999年、2005年、2019年と3つの時代に分けて描く人間ドラマ。父親を麻薬乱用で亡くしグレていた少年が、舘ひろし演じる組長に拾われ、はじめて居場所を与えられる疑似的な家族ドラマでもある。時代や社会に翻弄される、孤独な人間の物語を一貫して描いてきた藤井監督らしい感動ドラマだ。
新しいヤクザ映画
これまでヤクザ映画といえば、Vシネマや大衆向けのアクション娯楽映画の印象が強いが、藤井監督と河村氏は「抗争という目線ではない、新しいヤクザ映画」を目指して製作したという。
「たしかに藤井監督のアート的な映像感覚と、社会のつまはじき者に対しても温かい目線を感じる斬新なヤクザものでした。しかし彼ららしいのは、暴対法施行とともに落ちぶれていく、主人公が属する昔ながらの任侠ヤクザに対し、悪徳警官ら権力と結託する経済ヤクザの台頭が描かれている点です。これは、“今だけカネだけ自分だけ”の新自由主義的価値観に蹂躙される古き良き日本社会を暗喩しているように見えます。追い詰められた人間が尊厳を奪われる展開の数々は、コロナ禍でも変わらず国民いじめを続ける現政権への強烈なアンチテーゼでもあるでしょう」(前田氏)
エンタメだけの平凡なヤクザ映画など作る気なし。「新聞記者」の最強コンビは、菅政権時代も忖度なしで気炎を吐いている。
コロナ禍のいまだからこそ必見だ。