山口洋子は東映ニューフェイスからヤクザの愛人に…
《「箱根に連れていってやろうか」
桐島に言われたのは、一週間ほど前である。
箱根、嬉しい、ほんと? と私は手をたたいて喜んだ。(中略)
桐島はやくざであった。渋谷一帯で近ごろのしあがってきた新興の“インテリやくざ”と呼ばれる桐島組の組長である》(「半ダースもの情事 ロマン傑作集」に収録「情婦――おんな」山口洋子著/光文社文庫)
この「桐島」のモデルは、安藤組組長から俳優に転じた安藤昇である。洋子は当時、安藤の愛人だったのだ。安藤が実業家の横井英樹襲撃事件(1958年)に関与し、警察に追われると、洋子は当時住んでいた代々木のアパートにかくまっている。後年、クラブママ、人気作詞家、直木賞作家になりおおせた洋子に、過去の後ろ暗さはまるでなく、2人で週刊誌で対談したり、紙面で互いの本の書評をし合うなど、交友は生涯続いた。