<79>世界で一番大好きな写真家…R.フランクとの“時”がずーっと続いているんだ
ロバート・フランク(3)
ロバート・フランクのポートレートも撮ったんだよね(ロバート・フランクは1924年スイス生まれ、23歳で渡米。現代写真界の巨人、2019年に94歳で死去)。ジム・ジャームッシュ(映画監督)が、このフランクの写真を見て、「魂だけが写っているみたいだ」ってウマイこと言ってくれたんだよ。
男前のジム・ジャームッシュのポートレートも撮ってるよ。彼がフランクの家に遊びに行ったときに、オレの写真集を見たんだって。それで、映画の仕事で日本に来て、記者会見のときに、「黒眼鏡をかけてる男が少女と写っている写真集があるんだけど、そいつに会いたい」って言ったらしくて、映画の担当者が、それは荒木さんに違いないって、オレのところに連れてきてくれて、会ったんだよね。オレがフランクに贈った写真集(『アラーキーの東京色情日記』1986年刊)の表紙がさ、椅子に座ったオレが横に立つ女の腰に手をまわしてるんだよ。それを見たらしいんだ。フランクが家のリビングルームに置いてくれてたんだよ。
オレは1冊だけの写真集を作って贈った
オレはロバート・フランクに、1冊だけの写真集を作って贈ったんだよ。『クルマド・トーキョー』っていう写真集ね。車の窓から撮るから“クルマド”って呼んでるんだ。“クルマド”で東京を撮るから「クルマド・トーキョー」。オレはその頃、“クルマド”をやっててね、毎日撮ってた。そしたらさ、フランクもバスから撮ってたんだよね、「バス・フォトグラフ」をさ(ニューヨークの街を走るバスから撮影)。フランクに捧げる「クルマド・トーキョー」という展覧会をやってね、写真をカラーコピーして展示した(1992年、エッグ・ギャラリー)。そのカラーコピーの作品で作った、たった1冊だけの写真集。フランクのために作った1冊だけの写真集なんだよ(『クルマド・トーキョー』はA3サイズのカラーコピー作品135枚を特別製本した限定1部の写真集〔スイッチ・コーポレーション発行〕)。
フランクとは言葉で話さなくても、言葉以上にオレの気持ちが通じたし、それを受けてくれた。フランクとの“時”が、ずーっと続いているんだ。フランクはオレを息子みたいに可愛がってくれてね。親父というわけじゃないけど、世界で一番、大好きな写真家なんだよ。
(構成=内田真由美)