著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<80>子どもの頃の遊び場は遊女の投げ込み寺 春になると八重桜が咲いていた

公開日: 更新日:

 オレにとって、桜といえば、八重桜だったね。オレの家の墓が三ノ輪(台東区)の浄閑寺にあって、荒木家の墓のところに八重桜がパーッて咲くんだよ。三ノ輪の実家の近くの浄閑寺は、遊女の投げ込み寺で、そこの墓場がオレの子どもの頃の遊び場だったんだ。春になると八重桜が咲いて、その下で親父は近所の人たちを集めて酒盛りをして、花見をしてたんだよ。親父は花見と花火が好きでね。近所の人もよく知ってるからさ、お花見は荒木家のところでするって決まってたの。花見と言うと、そこに近所の人が集まるんだよ。

 うちの墓の隣に井戸があるんだけど、それは平井権八が誰かの首切った後に刀を洗ったとこで、その井戸の上にふたをして、近所で持ち寄った料理をのせて、みんなで宴会したんだよ。八重桜を見ながらね(浄閑寺の「本庄兄弟 首洗いの井戸」は、親の仇である平井権八を追った本庄兄弟、兄が先に返り討ちに遭い、兄の首を井戸で洗っていた弟もそこを襲われ命を落とした。本庄兄弟最期の地の井戸があり、二人の霊を慰める首塚が建てられている)。

■生に対する未練

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