2015-2022「那須川天心vs武尊」の記録(中)武尊を翻意させた那須川天心の快進撃
「武尊は那須川選手から“逃げている”とSNSで誹謗中傷されダメージを受けた。イメージダウンでスポンサー6社が離れた事実がある……」といった内容なのだが、筆者の見る限り、これを額面通りに受け取った関係者は皆無だった。「二度とK-1に関わるな」という警告的な訴訟だったとみてよく、これ以降、天心の口から武尊戦を熱望する声は聞かれなくなった。「これ以上関わったらやばい」という判断があったのは疑いようがない。“夢の対決”は完全についえたと誰もが思った。
しかし、そうならないのが人間の妙である。口火を切ったのは意外にも武尊の方だった。18年12月8日、K-1大阪大会のリング上で「時期はわからないんですが、必ず実現させようと思っている。勝つ気でいる」と名前こそ出さなかったが天心戦に言及。さらにバックヤードで報道陣を前に「本当に難しいことがあって……やるなら言い訳できない状態でやりたい」とコメント。何があったのかはわからないが、武尊から歩み寄ってきたのだ。
それを聞いた天心の反応は微妙なものだった。「ようやく向こうからやるって言ってきたんですね。形だけで言っているのか、本当に言っているのか、まだわからない」と、訴訟の件もあってか、受け流した。ファンがSNSで表記するのも「武尊対天心」だった4年前と打って変わって「天心対武尊」になっていた。天心にとって、もはや武尊は追いかける存在ではなくなったことを意味した。