著者のコラム一覧
井筒和幸映画監督

1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。

漂流ニッポン丸よ、どこの港につけるんだ? どいつがまともかアウトか見分けがつかない

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 何を見ても下手。俳優のセリフ回し。トム・クルーズはどうでもいい。戦闘機に乗ってればいい。日本のドラマ映画の会話劇はほんとに下手だ。日常、しゃべってるようにしゃべれない。台本に書かれたまま読んでる。「口語体」で書かれてないのも悪いのだが“棒読み”だ。日常会話に聞こえない。チャンネル替えの隙に映る警察特捜ドラマなんか事件説明の応酬ばかりで(当たり前か)、まるで朗読劇だ。口語に変えたらいいのに、刑事も犯人もセリフをつまらないように言うので精いっぱいだ。もう何十年も日本独特の紋切り型の会話をしている。客も俳優がしゃべるのを聞かないと筋が分からないから聞いてるだけ。わざとらしい口調のヤツも多い。芝居がバレている。

 これは某新聞のコラムに載ってた話だが、昔、演出家に、才媛・市原悦子さんは「セリフをうまく丸め込んで体よく終わらせるんじゃない」と叱られたそうだ。セリフは生きてるものだし、不安定だから、うまく言いくるめると逆に不自然になると。

 日常の会話に“いい間”も“悪い間”もない。言葉は突いて出るのだ。あたかも初めて言うように言い、初めて言いよどむようによどむのがセリフだ。なのに、俳優は言いくるめてしまう。「いいんだ、じゃなく『いいんだよ』だ。語尾に『よ』を付けて」と教えなければならない。これも昔の話だが、勝新太郎さんは「警視─K」という主演ドラマで脚本も自分で書き、原稿用紙に「いいんだヨ……」と鉛筆で書いてから、ヨを消しゴムで半分薄く消してから、その原稿を共演者に渡して「ヨの音は小さく読んで」と教えたそうだ。名優はそこまでこだわって演出したのだ。

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