中国で大ヒットの映画「1950 鋼の第7中隊」単なる愛国プロパガンダではない理由と見どころ
監督は特撮が得意なツイ・ハーク、「オペレーション:レッド・シー」(18年)などアクション映画で知られるダンテ・ラム。そして「さらば、わが愛/覇王別姫」(1993年)ほか人間描写に定評あるチェン・カイコーと、香港や中国のトップクラス3人が共同で務める豪華な布陣。
■現在の米中対立も考慮?
そうした点でも規格外な映画だが、成り立ちが中国共産党創立100年記念企画ということで、政府のプロパガンダなのではとの声も根強い。そのため超大作ながら積極的に海外展開しているとはいえず、日本ではほとんど話題にはなっていない。いわば“国内専用商品”だが、それでもこれだけの興収を記録したのだから驚かされる。
「ここ数年、中国では“主旋律映画”と呼ばれる愛国的映画のブームが意図的に作られていて、その地盤の上で花開いたいわば集大成が本作です。中国人はただでさえ歴史ジャンルが大好きといわれていますが、中でも“長津湖の戦い”は最強米軍に一矢報いた民族の誇り。彼らには格別なのでしょう。ただユニークなのは、こうした愛国映画は本作含め、米国を絶対悪としては描いておらず、反米世論もあおっていない。意外なほど攻撃性が薄く、我々外国人が見ても比較的受け入れやすい普遍的な感動ドラマの側面が強いです」(前田氏)
朝鮮戦争時、米国との決定的対立を避けるため、中国は正規軍でなく「志願軍」の名目で参戦した。米中対立が深まる2022年現在だが、たとえフィクションの愛国映画でも不要に対立をあおらないあたりは、伝統的な戦略なのかもしれない。