小泉今日子さん、和田靜香さん、そしてぼく。意思表示を辞さない50代3人の言葉に耳を傾け、見届けてほしい
この連載が始まってまだひと月も経たぬ一昨年の9月にとりあげたのが、東京・下北沢の「本屋B&B」。本(Books)とビール(Beer)を意味する店名通り、酒やソフトドリンクを片手に読書やトークイベントを楽しむことができる本好きの天国だ。
そのとき同店で行った、日本のポピュラー音楽文化の特徴を論じた『「未熟さ」の系譜』(新潮社)の著者・周東美材さん(現在、学習院大法学部教授)との公開対談は、いま思い出しても相当スリリングな内容だった。なかでも、朝鮮戦争に米国兵として従軍した故ジャニー喜多川氏が、その後日本の再軍備推進を目的とする機関の職員を務めていたという事実には驚いた。周東さんが淡々と語る「ジャニーズ前史」にぼくがどれほど興奮を覚えたか。それを書きとめたコラムは予想外の反響を呼んだ。今年初頭に出版した『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』(講談社)にも収録したので、アレかと膝を打つ方もいらっしゃるかもしれない。
強調したいのは、公開対談が行われた22年9月はまだ「ジャニーズ性加害問題」という言葉さえ生まれていなかったこと。ぼくがその問題について本格的に声を上げはじめたのは、翌23年3月に英BBCで放映されたドキュメンタリー『プレデター(捕食者)』を観てから。本業の音楽にたとえるなら、B&Bでの周東さんとの対談でふれたジャニーズの話は、正規リリース前にライブで一度だけお試し的に披露したデモ楽曲のようなものか。
昨年末、『推す力 人生をかけたアイドル論』(集英社)を上梓したばかりの中森明夫さんとB&Bで行った対談では、彼がアドリブで繰りだすきわどい質問にぼくは狼狽えまくったものだ。だが今となっては、自分で原稿を書くだけでは表現しきれない何かを引き出してもらえたと心から感謝している。そして、これらを総じて「ライブならではの醍醐味」と呼ぶことへの躊躇は露ほどもない。