さようなら俳優座劇場最終公演「嵐 THE TEMPEST」は混迷が続く今の世界と通底する悲喜劇
物語はエアリエルの力ですべての暗殺計画は未遂に終わり、プロスペローは娘を王子と結婚させ、アントーニオとも和解する大団円で幕を閉じる。暗殺者たちにざんげの気持ちや謝罪がまったくないのに、すべての行いを赦(ゆる)そうとするプロスペローの姿が示すのは憎しみの連鎖を止めるには「無限の赦し」を必要とすることだ。
劇団俳優座が俳優座劇場最後の公演に同じくシェークスピアの「リア王」を翻案した「慟哭のリア」を上演したが、2つの作品は、「復讐=悲劇」と「赦し=喜劇」という対をなすものだ。
プロスペローが支配した孤島は当時のイギリスの植民地の比喩であり、エアリエル、キャリバンを解放したのは、植民地の解放と読める。プロスペローは最後にこう言って客席に拍手を求める。
「祈りの助けがこの身に必要。それがなければ終わりはただの絶望。祈りは神の慈悲を引き出し、過ちすべて、はるかかなたに……」
混乱と戦禍が続く今の世界にシェークスピアの言葉が二重写しになる。
シェークスピアの時代から400年。俳優座劇場が「テンペスト」が掲げる世界の協調・融和という理想を最後の舞台に乗せたことは意義深い。