「時代とFUCKした男」加納典明(1)56年前、草間彌生と芸術的なクロスをした「FUCK」
「平凡パンチなんて世の中に害毒をまき散らす雑誌だろ」
加納「その椎根和がバーの飲み友達だったんです。で『加納氏、今度、うちで女のヌード撮ってみない?』って言うわけですよ。だから僕は『おまえさ、平凡パンチなんて世の中に害毒をまき散らす雑誌だろう』って言ってたぐらいなんですよ。ヌードったって現代のようなものはプレイボーイにしてもまだやってなかった。私の2世代上の人たちが撮ってた時代で、巻頭グラビアというのはいかに女性の体を奇麗に撮るか、美しく撮るかというような時代だった。
私の時代というのはもうやっぱり、全共闘じゃないですけれども、言ってみりゃ、若者が社会に対してどう物を申すかという時代になってた。僕なんかはさらに性格的にもそういうとこ強いですから『そんな世の中に害毒を流してる雑誌で撮れるか』なんて言ってたんですけど、しつこく頼んでくるわけですよ。『そういうこと言わずに、加納さん頼むよ』って」
増田「プレイボーイなんかでヌードグラビアはまだなかったんですか」
加納「あったけど、言ってみれば泰西名画の延長みたいな、いわゆる美人ヌードというやつで。で、僕が、じゃあしょうがない、やるかつって2、3本撮ったんですよ」
増田「それが受けたと」
加納「すごく受けて売れたらしいんですよ」
増田「それで69年にニューヨークに行った」
加納「そうです」
(第2回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。