米国ではブタの心臓を人間に 「異種移植」は長く研究が続けられている
■移植用の臓器は大幅に不足している
先ほどもお話ししましたが、今回の移植手術で使われたブタの心臓は、遺伝子操作した細胞をベースにして育成されたブタから取り出されたものなので、最初から異種移植の研究用としてつくられたということになります。
遺伝子操作を活用した研究は、われわれ順天堂大学でも行われています。たとえば、遺伝子の一部を組み換えることで、研究の対象としている疾患を発病するマウスは飼育法も単純なので作成は可能です。そうした遺伝子操作の手法の進歩によって、疾患を発病するモデルとは反対に、拒絶反応を起こさないようにする「免疫寛容」という体質を持ったブタの作成も可能になったのです。しかし同時に感染症にも弱くなるため、マウスよりも相当長い発育期間が必要で、さらにその間の飼育法や感染対策に高度な管理が求められるのは言うまでもありません。
また、遺伝子操作を行った生体の臓器とはいえ、人間の体にとっては“異物”ですから、拒絶反応を完全にゼロにすることはできません。ですから、遺伝子のどの部分を組み換えれば、人間の体内で拒絶反応を起こしにくくなり、免疫抑制剤を使えば管理できるようになるのか……そのレベルに達するまで研究を重ねて試行錯誤を繰り返し、ようやく受容できる範囲の臓器をつくることが可能になったと考えられます。