認知症でも脳に器質的変化があるとうつ症状が出やすくなる
周囲に無関心になる「アパシー」の可能性も
認知症の主な症状には、脳の神経細胞の障害で起こる認知機能障害「中核症状」と、中核症状と環境要因・身体要因・心理要因などが相互作用して生じる「BPSD(認知症の行動・心理症状)」があります。
アパシーは、自発性、発動性、興味、関心、動機付け、感情などが低下した状態のことで、BPSDの中でよくみられる症状です。BPSDには徘徊、興奮、妄想、幻覚、暴言暴力、収集癖、多動などもあり、これらと比較してアパシーは日常生活で大きな問題が生じないため、周囲から気づかれないことも珍しくありません。
しかし、外出しなくなることから運動量が減少し、筋肉量が低下。歩行が困難となって、より外出しなくなる悪循環に陥る可能性があります。食べることに関心を示さなくなれば、フレイル、サルコペニアが進む可能性もあります。早めに発見し、早めに対策を講じることは、非常に重要です。
認知症の人へのアパシーに対する非薬物療法の効果を検証するため、56の研究に対して行われたシステマチックレビューが報告されています。システマチックレビューとは、質の高い複数の臨床研究を、複数の研究者らが、一定の基準と一定の方法に基づいて取りまとめた総説のこと。
それによると、個々人に合わせて構築された活動がアパシーの軽減に期待できるとのこと。介護保険によるデイサービスなどのプログラムに参加するのも一つの方法ですし、私がかかわっているオンライン健脳カフェを活用してもらうのもいいと思います。パソコンさえつなげば家の中で参加できますから。認知症患者さんのことをよく理解している方が、多彩なプログラムから、患者さんに合ったものを選べばいい。
薬物療法に関しては、コリンエステラーゼ阻害薬のアパシーに関する効果が確認されています。漢方薬の抑肝散と、コリンエステラーゼ阻害薬のひとつ「ドネペジル」との併用でアパシーが改善したとの報告もあります。なお、アパシーの症状はうつ病と似ているところもありますが、うつ病とは異なり、抗うつ薬による治療効果は期待できないとされています。