乳がんに朗報! 世界初「ホウ素中性子捕捉療法」による試験的治療がスタート
標準治療が尽きた患者の新たな武器に
BNCTは現在、日本が最先端であり、BNCT用加速器型中性子照射装置システムによる再発後乳がんの治療は、今回が恐らくは世界初ではないか、と黒崎医師は言う。
「2020年には国内で乳がんの放射線治療後に再発された患者さんのBNCTが行われましたが、このときは原子炉型による中性子照射装置システムでの治療でした。原子炉型だと、研究所を一時的に医療機関にして治療が行われることになります。しかし、われわれのような病院設置型BNCT用加速器型中性子照射装置システムでは、病院と一体化されているため、より安全に治療が行えます」
最初の治療は7月5日にスタートする。患者は70代で、数年前に乳房全摘手術と放射線治療を受けた後に再発したという。
「乳がん治療では、乳房温存療法は乳房全摘と同等であることが知られていますが、それは乳房温存手術後に放射線療法を加えることにより達成されます。また、高リスクの乳房全摘手術後に術後放射線照射が予後を改善することも知られています。それだけ乳がん治療において放射線治療は大きな武器となっているのです」
ところが、過去に放射線治療の既往がある場合は、同一部位への再照射は原則禁忌となっている。正常細胞には一定の限度を超えると、不可逆的変化を来す耐容線量があり、一連の照射ではその限度近くまで照射されていることが多いからだ。
「しかし、BNCTは先述したように、これまでの放射線とはまったく異なるシステムでがん細胞を破壊し、理論的に正常細胞にほとんど影響を与えません。そのため放射線治療をすでに行った乳がん患者さんにも試すことができます。つまり、標準治療が尽きた乳がん患者さんに有望な新たな武器を提供することができるかもしれないのです」
黒崎医師のチャレンジに大いに期待したい。