長寿研究のいまを知る(2)「フリーラジカル」や「遺伝子変化」が老化の決定的原因ではない
20世紀後半になると、老化の原因について新たな考え方や科学的知見が相次いで報告された。その代表的な説のひとつが1956年に発表された「フリーラジカル説」である。米国医学者のデナム・ハーマン博士が唱えた説で、私たちが呼吸によって体内に取り込んだ酸素の一部が通常より活性化された活性酸素(ROS)に変換される。それが人体の細胞成分やその集合体である臓器を錆びつかせ、さらにはタンパク質の製造の設計図が描かれているDNAにもダメージを与えることで、最終的に体全体を老化させていくとの理論だ。
体に取り込む酸素の90%以上は、細胞内小器官のミトコンドリアにおいてATPと呼ばれるエネルギーをつくり出す際に利用される。そのプロセスでROSが排出され、ミトコンドリアに悪影響を及ぼす。これによって劣化したミトコンドリアは、さらに大量のROSを排出するようになる。
そのためハーマン博士らは、その後「ミトコンドリア老化説」を唱えた。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。
「いまでもフリーラジカル説を基にした抗酸化食品などが人気ですが、現在、長寿研究者の間ではこの説だけで老化が説明できるとは考えられてはいません。フリーラジカルは遺伝子変異を引き起こすし、ミトコンドリアのDNA損傷が老化の特徴であるのはたしかです。だからといって、老化の決定的原因というものではありません。いくらフリーラジカルでDNAを傷つけても人工的に死に至るまでの老化をつくり出すことはできないし、ミトコンドリアの修復も行われていることがわかったからです。これは多くの研究で明らかにされています」