母と娘とをつなぐ喪失と癒やしの物語
「秘密の森の、その向こう」
人をつなぐ絆の中でも母と娘のそれはとりわけ強い気がする。その深みを描くのが先週末封切りのフランス映画「秘密の森の、その向こう」である。
子役を上手に使った映画は世界中あまたとあるが、本作には目を見張る。主人公は8歳の少女ネリー。物語は彼女の母親が自分の母(つまりネリーの祖母)をみとった直後に始まる。
母を亡くした悲しみをこらえるネリーの母マリオン。その嘆きを幼いネリーは感じながらも、しかと理解することができない。もどかしさを抱えて、ママを慰めたいネリーのふるまい。型にはまった子どもらしさとは違う表現だ。
8歳は幼女の気配を残す年頃で、あつかいが難しい。10歳の子役ならずっと楽だろうが幼さは消えてしまう。
監督は昨年公開の「トムボーイ」でも子役を起用したセリーヌ・シアマ。出演は双子のジョセフィーヌとガブリエル・サンス姉妹。たぶん8歳という設定通りの年齢だろう。ふたりのつながりの濃さが母娘の絆と重ね合わされて、深みのある世界を描き出す。
秋深い森の美しさが映像の上品な語りを引き立てる。こういう品のよさは当節なかなか見ることができない。
母娘の絆をめぐる語りの精妙さで思い出すのがイサベル・アジェンデ著「パウラ、水泡なすもろき命」(国書刊行会 2640円)である。
高名なチリの女性作家のもとに結婚した愛娘が昏睡状態との知らせが入る。血液酵素の難病で先行き不明。母はこれまでの家族の歴史と母子の物語を、意識不明の娘への手紙にしたためる。自身の経験をありのままつづった作品だが、なにより語りが濃密にして流麗。それを「水泡」(みなわ)と表現した訳者の手練にも脱帽。映画とは反対の哀しみに終わる話だが、ふしぎな清涼感を残すところがどこか似ている。 <生井英考>