松尾潔のメロウな木曜日
-
「あなたに小説執筆をつよく勧めたのは藤田だから」小池真理子さんの言葉に胸が塞がりそうになる
作家の小池真理子さんのお招きを受けて、彼女が暮らす軽井沢を訪ねた。大切な目的があった。真理子さんの夫・藤田宜永さんのお骨との対面である。 藤田さんが肺腺がんで亡くなったのは、日本初の新型コロ…
-
早稲田大学セクハラ事件のコメントに反響…あー地獄、もう傍観者になるのはやめよう
今週月曜(4月10日)、福岡RKBラジオの朝ワイド「田畑竜介グローアップ」で早稲田大学セクハラ事件の東京地裁判決について話したところ、たいへんな反響があった。番組の内容が掲載されたYahoo!ニュー…
-
坂本龍一さんは政治に従属を強いられる芸術の「居場所」を案じていたのではないか
先の日曜(4月2日)の夜、長時間のテレビ収録を終えたぼくは、ゴスペラーズ黒沢薫邸に向かっていた。日付が変われば黒沢くんは52歳になる。おめでたい。気の合う仲間で集って祝おうじゃないか。奇しくも、昨秋…
-
バブル期の狂騒と終焉は「新しめの昔話」ではない 現代と地続きの「終わりのない物語」だ
このひと自分に似てるかも。そんなキャラクターに出会えるのは小説を読む醍醐味のひとつ。思春期に読む太宰治作品とかね。昭和の高校には思いつめた表情で「『人間失格』はオレの話です!」と熱く語るヤツがクラス…
-
音楽は「生きる」と「夢を見る」の間にあるというのが、音楽を生業にしてきたぼくの実感
今週の日曜(3月19日)、故郷の福岡市で音楽イベント「FUKUOKA MUSIC SUMMIT」が催された。そのトークセッション「街と音楽の記憶」に、ぼくは同じく福岡出身である俳優の光石研さん、松重…
-
「安倍晋三とジャニー喜多川」政治と芸能を取り巻く状況は相似形をなしている
先週の本連載は結構な反響を呼んだらしい。前半でふれた少年隊・錦織一清さんの快著『少年タイムカプセル』ではなく、後半で言及した英BBCによる故ジャニー喜多川氏の性加害疑惑ドキュメンタリー『プレデター(…
-
少年隊・錦織一清が自叙伝「少年タイムカプセル」で語ったことと語らなかったこと
12歳でジャニーズ事務所に入り、20歳になった1985年、「仮面舞踏会」でデビューした少年隊のニッキこと錦織一清。ジャニー喜多川、つかこうへい、このふたりの恩師の流れを汲む舞台演出家としてキャリアを…
-
CHEMISTRY×Da-iCE「スパロウズ」異世代コラボ誕生と楽曲制作への想い
CHEMISTRY×Da-iCE「スパロウズ」の配信が昨日から始まった。来週3月8日(水)にはCDが発売される。今回はこの異世代コラボをプロデューサーであるぼくの立場からお話ししたい。 CH…
-
中森明夫氏の新刊「TRY48」は父親殺しの書でもあり、昭和へのレクイエムである
先週の本連載で、新宿のバー「風花」で催された朗読会の模様を報告したところ、望外の反響をいただいた。出演者のひとりとして、たいへんありがたいことである。今週はその会を島田雅彦さんと共に数年ぶりに復活さ…
-
生きるために政治は必要だが、生き心地を確かめるには文学が役に立つ
金融緩和策をとってきた日銀の黒田総裁の任期が4月8日に満了する。翌9日と23日は統一地方選挙。首相は国民負担増を想起させるワードの使用を控えることに余念がない。財務省と政権が防衛費の財源確保のために…
-
久保田利伸さんとBunkamuraの夜…長年のファンほど真剣に在りし日の幻影を追ってしまう
大人の渋谷のシンボルとも言われた東急百貨店本店が、1月31日に閉店した。ぼくは1967年11月オープンの同店と「同級生」。数軒隣のビルに自社オフィスを構えていたこともあり、同店にはただならぬ愛着心を…
-
さらば週刊朝日! 最終号まで買ってやるからな…半世紀愛読したからこそ厭味も言わせて
この国で最長の歴史を誇る総合週刊誌『週刊朝日』が5月末に休刊する。ネットの大波の前についに力尽きたといえば話はそこで終わる。週刊誌ジャーナリズムの〈終わりのはじまり〉という見方もあろう。だが昨年の創…
-
高橋幸宏さん逝去 われらが世代のヒーローだったことを痛感する
スタジオジブリ発行の小冊子『熱風』をご存じだろうか。その最新号(1月号)で、ぼくはジャーナリスト青木理の連載対談「日本人と戦後70年」に招かれた。ぼくより一学年上の青木さんは、対談が始まるや自分がポ…
-
トップスター・荒木一郎は大きすぎる犠牲を払いながら「なりゆき」を謳歌した
ぼくが音楽プロデューサーだと知ると「すごいですね。お仕事を始めたきっかけは何ですか」と訊ねる人は多い。まだキャリアが浅いころは、その都度真に受けて自分の来歴を丁寧かつ詳細に答えていた。でもこの種の話…
-
息子であることの定年を迎えた…父の他界と55歳の誕生日に思ったこと
年が明け、昨日1月4日、55歳になった。 55歳。昭和のサラリーマンとその家族にとっては、今なお特別な意味を持つ年齢ではないか。当時日本の多くの企業の定年は55歳だった。大げさにいうなら、5…
-
映画「ホイットニー・ヒューストン」字幕監修から見えたオモテとウラの魅力
2012年に48歳の若さで非業の死を遂げた天才女性歌手の人生を巧みに描いて話題の映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』が、クリスマス・ウィークエン…
-
「ほどよい不完全さ」をあえて残しておくのが作詞のむずかしさでもあり、おもしろみでもある
先月、作詞した天童よしみさんの50周年記念シングル「帰郷」について書いた。そのとき、同曲が第55回日本作詩大賞にノミネートされたことに触れたのをご記憶だろうか。まさに軽く〈触れた〉程度だったが、驚い…
-
「警告」と縁深し 津田沼パルコの閉店と最初で最後となったラジオの公開生放送のこと
先週末の夜、ぼくは千葉県習志野市津田沼にいた。JR津田沼駅北口から伸びるペデストリアンデッキには溢れんばかりの人びと。「津田沼パルコ」の壁面を使ったプロジェクションマッピングの見物客である。梨泰院雑…
-
「後ろめたさ」こそが文学 鬼才・林真理子の真骨頂とは
「日本の作家だと誰を読んでます?」 初対面の相手に趣味を問われて読書と答えた時の第2問として、最もポピュラーなもののひとつだろう。回答には、ある程度以上の著作数がある作家、さらに言えば現役作家…
-
天童よしみさん「NHK紅白出場」に心から安堵、あのタイムレスな歌声の偉大さよ
大晦日の『第73回NHK紅白歌合戦』の出場歌手が発表された。賛否両論あれど、紅白はこの国有数の長寿テレビ番組である。現在もなお放送業界と芸能界で破格のステイタスを誇ることは周知の通りだ。「紅白」のよ…