「クララとお日さま」カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳
主人公は「AF」(人工親友)として店頭販売されていたクララ。クララは旧型だがずばぬけた観察力と学習意欲を持ち、人の心を推論して理解する能力もあった。
店のショーウインドーから外の世界を観察していたクララはある日、14歳の少女ジョジーと出会い、買い取られることに。一緒に暮らし始めるとジョジーが病弱であること、母親は娘の死を恐れるあまり、奇妙な計画を立てていることが分かってくる。クララは自分の役割はジョジーを助けることだと考え、周囲の人々から悲しみや愛情などさまざまな感情を学び、献身的にジョジーに尽くす。
しかし、ジョジーの病気は重症化。クララはかつてショーウインドーから見た光景――道で倒れた人がお日さまの光で生き返った―――を思い出し、お日さまに「特別な助け」を願い、思い切った行動に出る。
2017年のノーベル文学賞受賞後初となる長編小説。クララを語り手に、ジョジーとの出会いから別れまでを時間軸に沿って描いていく。
善意の塊のようなクララの目に映る、格差社会や一種の優生思想など殺伐とした分断社会、そして心より科学に傾倒する人々の姿が痛ましい。
(早川書房 2750円)