「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」桜木紫乃著
舞台は昭和50年の釧路。章介が住み込みでアルバイトを続ける場末のキャバレー・パラダイスに、師走のある日、3人の演者がやってきた。マジシャンのチャーリー片西、ド迫力な女装のシャンソン歌手、ソコ・シャネル、自称28歳のストリッパー、フラワーひとみ。そして、その夜から章介はパラダイスのおんぼろ寮で、ワケありの彼らと共同生活をすることに――。
16歳で家を出て以来、頼る相手を持たず、また会話のなかった章介の生活に入り込んできたやかましく個性的な3人。戸惑いつつも、「お帰り」「おはよう」の挨拶や言い合いのようなおしゃべり、分け合って食べる食事に、章介の日々は温かいものになっていく。舞台でも彼らの軽妙な会話は健在で、師匠の失敗ばかりのマジックさえも大盛況。しかし、ある事件によって共同生活は突然終わりを迎えることに――。
「ホテルローヤル」や「家族じまい」など家族を題材にした作品も多い著者の最新作。今作は、極寒の地で出会った4人がやがて「疑似家族」のような関係を紡ぎ出し、別れるまでの1カ月が描かれる。
どん底生活ながら笑って生きていく登場人物に見え隠れする、人間が持つ弱さや優しさが胸に迫る。
著者には珍しいラストシーンも読みどころ。
(KADOKAWA 1760円)