<第1回>「視聴率に振り回されるのはすごく愚かなこと」
■大河「武田信玄」で数字バブルを経験
役者歴7年目、27歳の時、大河ドラマ「武田信玄」(88年)の主役を演じた。番組最高視聴率49・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。若き日の中井を代表する大ヒット作となった。
「視聴率40%台が初回から12回まで続き、現場は活気に満ちていました。撮影していたNHKの106スタジオの前にはお客さまからのハガキが張り出されていて、読むと〈歴代の大河で一番面白い〉とか〈感動した〉とかいい内容ばかりが並んでいて……。そこで担当ADに『いい感想ばかり並べて何になるの? 悪いメッセージを張ってよ、ネガティブなやつ』とお願いしたんです。『ホントにいいんですか?』と聞かれても、『マジです』って念押ししたら、あるんですよ、これが。ネガティブな感想がたくさん。『中井貴一はキツネ目の男に過ぎない』『中井貴一は主役の器ではない』とか。めちゃくちゃ落ち込みました(笑い)」
当時はプロ野球が毎日地上波で放送されていた。人気の大河でも、開幕後は数字が落ちた。
「視聴率が38%まで落ちると、現場では『なんでサンパチなの?』と。軽い視聴率バブルが起こっていました。視聴率がまったく気にならないわけではありませんが、この時の経験があるので、数字に振り回されるのはすごく愚かなことのようにも思う。現場のスタッフには『視聴率が悪くても内容が良ければ』と慰めたくなります。実際にそう話すこともあるんですが、本音を言えば、言いたくない。やっぱり、数字を取れない作品は、お客さまを引きつけるものが少なかったってことですから」