ドラマは履歴書を作らないと“根っこのない木”になる
碓井 八千草薫さんが演じていた大女優・九条摂子が、若い頃、特攻隊員の前で一緒に食事をしたというエピソードも印象的でした。
倉本 森みっちゃん(森光子)だったか高峰三枝子さんだったか、木暮実千代だったか。誰から聞いたか記憶の中で定かではないんですが、「たまらなかった」っていうのはおっしゃってましたね。
普通の慰問とは違う形で飛行機だかトラックだかに乗せられ、何も言われないままテントの中に入ったら、20代の特攻隊員がズラーッといて。隊員たちもビックリしている中で一緒に食事をして。ただ、この話は世の中に史実として残っていない。
碓井 史実から消された事実、見ている側もいろいろなことを考えさせられました。最近は戦争の実相に触れるドラマってなかなかないんですよね。
倉本 戦争経験者で存命の多くは昭和から生きてきて、戦後もバブルも体験し年老いてきた人間の集合体です。当たり前ですが、芸能界に入る前にそういう何かを背負った過去があってしかるべき。だから僕は履歴書を丹念に作るんです。