「ワン・フロム・ザ・ハート」(1982年、米国)
ベタな話ほど意外と味わい深かったりする。倦怠期を迎えたカップルが大ゲンカして、それぞれ別のパートナーを求めるが、最後は元サヤに。そんなベタベタな恋愛劇を撮ったのが、巨匠コッポラなのだ。
冴えない男を演じるのがピッタリのフレデリック・フォレストは、廃車置き場でサーカスの美女役のナスターシャ・キンスキーと浮気する。女が曲芸を披露すると、山積みの廃車が一斉にクラクションを鳴らすシーンは、疲れ果てた男でも美女を目の前にすると元気になることを暗示するのか。めちゃ笑える。
「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」と立て続けに大作を発表した巨匠は、重圧を発散するかのようにスケベオヤジ的な妄想を随所にちりばめている。全身タイツ姿のナスターシャがカクテルグラスの中で踊る姿は、そんな妄想そのもの。きらびやかな映像とともに、気だるいジャズが男女の心理をいい感じに映し出している。
舞台となるラスベガス郊外の砂漠に女体の曲線を求めた巨匠は、本物の女性を砂に埋めている。
ラスト、愛する女性を乗せたと勘違いした旅客機は、失意の主人公の頭上すれすれで飛び去っていく。そのシーンでトム・ウェイツがしわがれ声で歌った歌詞だ。
興行的には大失敗で、酷評された本作だが、ボクは年を取るごとに好きになってきた。いやぁ、ボケーッと酒でも飲みながら見ると、オヤジのおとぎ話的な要素が満載。最高に癒やされる。ストーリーを期待しちゃダメ。映像と音楽を楽しむ大人の映画だ。