野球選手の注文 昭和は長嶋と王で平成はイチロー令和は?
寄席で色物芸人の持ち時間はたいてい15分。時間が押している場合は10分で降りることもある。
「時間が足りなくて、受けた注文を全部切れないと、それを残すのが心苦しい。特に注文したのがお子さんとかお年寄りで、悲しそうな顔をしてるのを見るとね。そういう時は『楽屋で切って木戸口に預けておきますから、帰りに持ってって下さい』と言って降ります」
末広亭で子供の注文を木戸口に預けておいたのを私は目撃した。その子供はどれほどうれしかったことか。きっと寄席が大好きになったろう。
「お客さまから5つ注文を受けたとして、4枚までとってもうまく切れる日があります。『俺って天才だな』と思えるほどね。ところが、よくしたもので、最後の1枚が失敗する。『やっぱりまだまだだ』と思い直して慢心を戒める。毎日がその繰り返し。それだけ紙切りは奥が深くて面白いんです」
イチローが4打席連続ヒットを打ったのに、最後の打席が凡打に終わると、「まだまだです」と言っているのと同じと感じた。そういえば、3月に彼が引退を発表してから、「イチロー」の注文が増えているという。