高橋伴明さん 中2の秋に親の目を盗んで観た成人映画の衝撃
それでも、上京から1年後に婚約者が遅れてやって来てくれて、マンションを借りて住みはじめたものだから、ますます稼がなければならない。
やがて、いくつもの現場から声をかけてもらうようになり、ピンクを量産していくのですが、今度はまあ、都会の絵の具に染まってしまった。新宿のゴールデン街と通りを挟んで「小茶」という店があり、そこをベースに夜ごと飲み歩いた。映画談議だったのが、表へ出ろとなり、殴り殴られ、自分のマンションじゃない部屋で目が覚める。
酒のボトルは凶器にもなり、命をかけられるのかどうかというような話の揚げ句、頭を殴られたこともある。同じ界隈で飲み歩いていた若松孝二監督で、僕もボトルで殴り返した。同い年の崔洋一には「サイだかカバだか知らねえが」と、こっちから吹っ掛けたらしい。ヤクザにドスで足を刺されたり、歌舞伎町一番街でのケンカで相手が昏倒し、「早く逃げろ」と言われたこともある。
いつ、どこで道を踏み外したのか。婚約者が去り、荒れ果てた生活の中で自問しても答えなどなかった。
映画は続け、「光の雨」(2001年)でやり切った気がして廃業宣言したときも、妻から「これからじゃない、自由にやれるのは」と言ってもらい、今に至る。