美川憲一&ザ・ヴァイパー多様性対談「すべては自分次第」
昨年大晦日の「NHK紅白歌合戦」はLGBTQの象徴であるレインボーの旗を振り、紅組(女性)対白組(男性)という枠組みを飛び越えて多様化路線に大きくかじを切った。そんな時代の変遷を自ら体現してきたジェンダーレスのレジェンド・美川憲一(73)と男装女子のボーカルグループ、ザ・ヴァイパーが多様性について語った。
◇ ◇ ◇
■「衣装で注意されるのはジュリーとアタシだけ」
美川 今はいい時代になったわね。私が紅白に「釧路の夜」で初出場した時(68年)は“衣装が派手すぎる”って怒られたのよ。それが今じゃ「おっさんずラブ」がヒットするなんて訳わかんない(笑い)。夫婦一緒に見てるってどういうことかしら。
ICHIRU 美川さんが初出場した頃は厳しかったんですか?
美川 スパンコールの柄の入ったタキシードと渦の大きな柄の着流しでリハーサルに出たら、局の人に注意されて。衣装で注意されるのはジュリー(沢田研二)とアタシだけ。男は中性的にならないように地味な方へ地味な方へと誘導するんです。でも衣装は変えなかったわ。
YUYA 美川さんが頑張ってくれたから、今華やかになったのかもしれませんね。
美川 歌詞も厳しくて「おんなの朝」は売れたのに歌えなかったんです。歌詞中の「ゆうべあんなに燃えながら」の1カ所が原因で。
JIN そんなに? じゃ「さそり座の女」の頃は少しは緩くなったんですね。昔はジェンダーレスなんて今以上に理解されないですよね?
美川 当時は“僕”って言ってたのよ。今はオネエ言葉が商売になるって気がついてから“アタシ”になったけど(笑い)。
ICHIRU ジェンダーで不都合はありましたか?
美川 面倒なことはないわね。子供の頃から男より男らしいから女の子にモテたのよ、初めて童貞を失ったのも年上の女性でしたし。奇麗な人でしたよ。アタシ、可愛かったから(笑い)。高校は男子校で修学旅行の時はたくさん誘われたしね。
YUYA 男女両方にモテたんですね。
美川 タクシーに乗ったら、外苑の薄暗い所に連れていかれたこともあったわ。「お代を倍払いますからお帰りください」って交渉したり大変だったこともあったわ。そうそう“オカマ”は決していい言葉じゃないのよ。
HARUTSUKI え? そうなんですか?
美川 カマを掘るっていう言い回しから来ていて、男娼のことなの。それで昔、道で“オカマ!”って言われて「アタシはオカマで商売してないんだよ!」って土下座させたこともあったわ。
HARUTSUKI 今は性別欄が、男・女・その他みたいな選択も多くなりましたね。
美川 女装が好きだけど、恋愛対象は女性っていう男性もいるし……今の時代メチャメチャね。LGBTQのQって?
YUYA クエスチョンです。
美川 わざわざカミングアウトする必要もないわね。あなたたちはカミングアウトしてるの?
YUYA いいえ。こんな格好だからなんとなくそうだろうと思われてますけど……。
美川 カミングアウトしなくていいんじゃない?今は。みんなクエスチョンで。
ICHIRU ジェンダーで面倒なことはありますか? 僕は高校時代、制服のスカートが嫌いでジャージー登校していましたけど。
美川 特に嫌なことはないわね。根本的に男ですから、アタシは男性用トイレで立ちションでも全然構わないんです。けど、周りがびっくりするでしょ?
ICHIRU 驚きますよ! 美川さんが隣にいたら!
美川 昔、韓国で男子トイレに入ったら通報されて、男だって言ったら、刑事がパスポート確認するのにホテルまでついてきて。ところが「可愛い! ここに泊まっていいか?」って居座られて、帰ってもらうの大変だったのよ(笑い)。あなたたちは?
YUYA 電車でおばさんにお尻触られて、目が合っても逃げるどころか、ニッコリされました。
JIN 僕は外国人の男性に男だと思ってナンパされて。一周回って違うっていう……。
ICHIRU 美川さんはいつからオネエ言葉に変わったんですか?
美川 タンスにゴンのCM(90年)の「もっと端っこ歩きなさいよ」や「おだまり」がブームになった頃ね。商売になるって思って。そしたら、まぁ、化けちゃって!
“女性よりも美しい”氷川きよしも相談
JIN 美川さんには相談も多いでしょうね。
美川 きーちゃん(氷川きよし)もね、私のシャンソンライブを見に来てくれたり、相談にも乗っているのよ。きーちゃんは奇麗になりたいと思って、自信をもってやってるから大賛成。私も昭和の正統派歌手だったけど、タンスにゴンの“キャラ変”なしに、そのまま続けていたら「あの人は今」になっていたわ。
JIN キャラ変も必要なんですね。
美川 おばさまファンが離れるんじゃないかって心配している人もいるけど……今、演歌も勢いを失い、CDも売れない、イケメンもたくさんいる状況で自分に“喝”を与えるためにもイメージを変えていかなきゃ。きーちゃんだって、男らしい演歌を歌ってきて実績を積んで、今まで温めてきたことをやり始めたところよね。きーちゃんは九州男児だからブレないわよ。
YUYA 紅白歌合戦の意味も薄まってきましたね。
美川 そうね。今は生まれ持った体で、自分を楽しんで自分をつくっていけばいいと思うわ。アタシは女装したら奇麗になれるんですけど(笑い)、女になりたいとは思わないし、スカートもはきたいとは思わない。だって違和感あるじゃないですか。いま性別にこだわっているのは、逆に、性転換したいタイプの人かもしれないわね。
JIN なるほど。
美川 生まれ持った体をどうプロデュースするかは自分次第。それが多様性なんじゃないかしら。すべて“いいじゃない”でいきましょうよ。
(構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)
▽美川憲一と男装女子の「ザ・ヴァイパー」がグループを結成し「いいじゃない~自由通り」(クラウンレコード)をリリース。7日「ごごウタ」(NHK総合14時05分~)に出演。