木村花さんの悲劇から1年余「侮辱罪」厳罰化 芸能人へのSNS誹謗中傷は減るか
上川陽子法相は16日に開かれる法制審議会で、刑法の侮辱罪の厳罰化を諮問すると発表。社会問題化しているSNSなどでの誹謗中傷の書き込みに対する措置で、具体的には、現行の「30日未満の拘留か1万円未満の科料」から「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」に改正する案を諮問する。
ちなみに「名誉毀損罪」は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」と規定されている。
侮辱罪が改正されれば、公訴の時効は1年から、名誉毀損罪と同じく3年となり、過去の書き込みについて公訴できる期間が延びる。
背景には、20年5月に「テラスハウス」(フジテレビ系)に出演していたプロレスラーの木村花さん(当時22)が、ツイッター上に書かれた中傷を苦に自殺したことがある。今年3月と4月に、「ねえねえ。いつ死ぬの?」「死ねや、くそが」「きもい」などと書き込んでいた男2人が書類送検されたが、「侮辱罪」で略式起訴され、罰則は科料9000円のみ。その軽さに罰則強化の声が上がっていた。
ツイッターなどSNS上で誹謗中傷の書き込みに対する「侮辱罪」や「名誉毀損罪」について、ベリーベスト法律事務所「削除請求専門チーム」に所属する井川智允弁護士はこう話す。
■バカ、ブス、ハゲもアウト
「『侮辱罪』は『名誉毀損罪』に近い犯罪ですが、相違点があります。名誉毀損罪の構成要件は、“公然と”“事実を摘示し”“人の名誉を毀損している”の3つですが、侮辱罪の構成要件は、“事実を摘示し”が必要ありません。例えば、SNS上で『あの人は薬物中毒だ』『前科がある』などと書き込んだ場合は、具体的な事実を摘示しているとして名誉毀損罪に該当する可能性があります。ただし、ここでいう事実とは、その真偽を問いません。一方で、侮辱罪が適用される可能性があるのは、いわゆる『バカ』『ブス』『死ね』の暴言の類いです」
攻撃的な書き込みは増加の一途
では、SNS上で散見される、芸能人に対する暴言はどこまでがアウトなのか。
「『消えろ』『ウザい』『ハゲ』『殺したい』など、いずれも侮辱罪が成立する可能性があります。『殺す』は脅迫罪になる可能性もありますね。侮辱罪について、法定刑の上限として懲役刑が定められたとしても、その表現内容の辛辣性、回数、程度などが考慮され、初犯から実刑になる可能性は高くはないと思われます。しかしながら、懲役刑すらあり得るということ自体が広く世間に周知されれば、違法な投稿を抑止する効果はあると思われます」(井川弁護士)
一方、ITジャーナリストの井上トシユキ氏はこう話す。
「木村花さんの一件以降も、相手が有名人であるかどうかを問わず、SNSで攻撃的な書き込みをする例は増加しています。これは“コロナ禍によるストレス”だけでは説明できないほどです。厳罰化はやむを得ない部分はあると思います。しかし、それでこうした書き込みがなくなるかはまた別問題。『2ちゃんねる』などの歴史を見ても、隠語に置き換えられ、それが一般化すると十分意味が通じてしまう。単に“言葉狩り”になってしまえば、言論や表現の自由との兼ね合いの問題もあるでしょう。また、基本的に名誉毀損罪も侮辱罪も親告罪なので、書き込んだ人を特定し告訴するハードルが高いのは変わらない」
井上氏はその対応策についてこう続ける。
「やはり基本的には“なぜ人を傷つけてはいけないのか”の根本的な教育が不可欠でしょう。さらに、大人に対しても、啓発活動をさらに強化していく必要があるかと思います」
言葉の暴力に倒れた木村花さんは無念の一言だが、果たして、今回の法改正が一石を投じることになるか――。