<118>「私、いごんを認めます」「早いほうがいいんで」態度を豹変させた早貴被告
「私、いごんを認めることにしました」
早貴被告の態度が豹変したのは8月末のことだった。
「何を言っているんだ。絶対に認めないって言っていたじゃないか」
自宅リビングで彼女と向き合った私は、強い口調で言った。
「弁護士から、認めたほうが早く遺産が確定するからと言われたんです」
「アホか。そんなことはないんだよ。キミの取り分が7.5億円も減るんだぞ」
「……だけど、早いほうがいいんで……」
「それが本当ならキミは弁護士たちに洗脳されているんだ。キミが逮捕されて有罪になったら遺産分捕りができなくなると弁護士は思っているから、早く早くって言うんだろ。キミが犯人でないならじっとしていればいいだけだ」
私は彼女に「いごん」を認めるように進言したという弁護士の戦術が全く理解できなかった。唐突に持ち出された「いごん」に対して遺族であるきょうだいが不服を申し立てることぐらいは分かりそうなのに、早貴被告がもらえるはずの取り分を減らしてまでも「いごん」を承諾するのは、賢明な選択とは思えなかった。